培地中リジン濃度の低減による脂肪細胞のトリグリセライド蓄積量の増加

要約

培地中のリジン濃度を、標準培地の1/4倍あるいは1/8倍に相当する濃度まで低減すると、3T3-L1脂肪細胞に蓄積するトリグリセライド量が増加する。

  • キーワード:リジン、3T3-L1細胞、トリグリセライド、インスリンシグナル
  • 担当:家畜生産・第一胃発酵・産肉制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リジン含量を要求量の70%に低減した飼料を肥育豚に給与すると、筋肉内脂肪含量が増加する。この現象から、脂肪細胞へ供給するリジンの量を低減すると、脂肪細胞が蓄積するトリグリセライド(トリアシルグリセライド、TG)量が高くなるという作用機作が考えられる。この仮説を検証するために、培地中のリジン濃度を低減して脂肪細胞を培養し、標準のリジン濃度の培地で培養した3T3-L1脂肪細胞と蓄積したTG含量を比較する。

成果の内容・特徴

  • DMEMならびに牛胎児血清で作製した慣行の培地中のリジン濃度921nmol/mlを標準リジン濃度とする。
  • 培地中のリジン濃度を、標準濃度の1/40倍まで段階的に低減させて3T3-L1脂肪細胞に蓄積するTG含量を測定したところ、標準リジン濃度で培養した3T3-L1細胞よりも1/8倍、1/16倍、1/40倍のリジン濃度で培養した3T3-L1細胞のTG蓄積量が低くなる。このときの培地中インスリン濃度は5μg/mlである。
  • 上述したインスリン濃度5μg/mlはブタの血中濃度の約1000倍に相当するため、培地中の栄養素濃度の影響を検討するには高すぎると判断し、0.25μg/mlならびに0.05μg/mlのインスリン濃度の培地を調製する。この培地を供して、リジン濃度が3T3-L1細胞に蓄積するTG量に及ぼす影響を検討する。
  • インスリン濃度0.25μg/mlの培地では、リジン濃度を標準濃度の1/4あるいは1/8倍にすると、3T3-L1細胞に蓄積するTG量が増加する。同様に、インスリン濃度0.05μg/mlの培地では、リジン濃度を1/8倍にするとTG量が増加する(図1)。
  • インスリンのシグナルに関わるインスリン受容体(IR)、インスリン受容体基質1および2(IRS-1およびIRS-2)のmRNA発現量は、リジン濃度1/8倍の培地で高くなる(図2)。このとき、IRS-1チロシン残基のリン酸化が促進される(図3)。以上の結果から、培地中のリジン濃度を低くすると、3T3-L1細胞のインスリンシグナルが増強され、この増強がTG蓄積量の増加と関与すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 脂肪蓄積におけるアミノ酸の役割に関する基礎的知見である。
  • 3T3-L1脂肪細胞はマウス由来の細胞であり、ブタ由来の脂肪細胞のTG蓄積に培地中リジン濃度が及ぼす影響については、別途検討する必要がある。

具体的データ

図1 培地中のリジン濃度が3T3-L1細胞の細胞内TG量 に及ぼす影響(n=6) 平均値±SE、a, b, c: P<0.05
図2 培地中のリジン濃度がIR、IRS-1ならびにIRS-2のmRNA発現量に及ぼす影響(n=6)図3 培地中のリジン濃度がIRS-1のチロシン残基のリン酸化に及ぼす影響(n=6)

(勝俣昌也)

その他

  • 中課題名:第一胃内発酵制御因子の解明と栄養制御による産肉特性改善
  • 中課題番号:130e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:勝俣昌也、京谷隆侍(茨城大学農)、石田藍子、中島一喜、中島郁世
  • 発表論文等:1)Kyoya T. et al. (2011) Anim. Sci. J. 82: 565-570.
    2)京谷ら (2011) 栄養生理研究会報、55(1): 55-67