高温水が生成できるCO2ヒートポンプによる生乳のプレクーリングシステム

要約

生乳のプレクーリング用アイスビルダにCO2ヒートポンプを用いる本システムは氷生成時に廃熱を回収し、洗浄に利用可能な80°Cの高温水が生成できる。従来方式と比べてエネルギー消費量で約4割、ランニングコストで約2割、CO2排出量で約3割を削減できる。

  • キーワード:CO2ヒートポンプ、高温水、生乳、プレクーリング
  • 担当:バイオマス利用・畜産バイオマス
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・畜産環境研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

酪農現場では石油価格の高騰や震災等の非常時におけるエネルギー供給の問題が露呈し、バイオマス等の再生可能エネルギーの利用促進が必要とされている。そのような中でランニングコストを抑えながら環境にも配慮した酪農経営が求められている。特に燃料費や飼料費の高止まりで経営環境が厳しくなる現状では、環境配慮と同時に生産性を落とすことなく利益確保が可能な機器がこれまで以上に強く望まれている。

そこで本課題では、省エネルギー、低ランニングコストかつ化石燃料消費量を低減する「CO2ヒートポンプを利用した冷却加熱同時利用システム」の実用化を目的とする。

成果の内容・特徴

  • 開発システムは、CO2ヒートポンプ((株)三洋電機製:CGU-V300MA、3.0kW、加熱能力9.0kW、冷却能力6.5kW)、アイスビルダ((株)三洋電機製:SPK-IS200B、熱容量200 MJ)、プレートクーラ((株)デラバル製:P30A-PR37(40mm))、貯湯タンク((株)三洋電機製:SPK-HTB460、460L)から構成される(図1)。
  • 栃木県那須塩原市にある搾乳頭数80頭のA農場(つなぎ飼い、搾乳ユニット搬送方式)と同110頭のB農場(フリーストール、8頭複列パラレルパーラー方式)に本開発システムを設置し実証した削減効果は以下の通りである。
  • エネルギー消費量は、約80°Cの温水を日量約980L生成できるA農場では導入前に比べて約49%、約2620L生成できるB農場では約34%削減できる(図2)。開発システムの加熱成績係数(加熱COP)は両農場共に2.4、冷却成績係数(冷却COP)はA農場が2.0、B農場が1.5である。
  • ランニングコストは、A農場では約37万円が約23万円となり年間約14万円(約39%)、B農場では約47万円が約38万円となり年間約9万円(約19%)削減できる(図2)。
  • CO2排出量は、A農場では4490kg-CO2/年(約40%)、B農場では2970 kg-CO2/年(約21%)削減できる(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:日生産乳量で約3000kgの酪農家。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:日本全地域。
  • その他:開発システムはフロンおよび代替フロン規制に対応できる。開発システム導入によるエネルギー、コスト等の削減量は、乳量と利用したい温水量の熱バランスに左右される。製造および販売メーカーと協議し市販化の予定(時期未定)、現時点での価格は概算で400から450万円である。

具体的データ

図1 開発システムの機器構成とCOP算出方法図2 実証農場における開発システム導入によるエネルギー消費量、ランニングコスト、CO2排出量の削減量

(石田三佳)

その他

  • 中課題名:畜産廃棄系バイオマスの処理・利用技術と再生可能エネルギー活用技術の開発
  • 中課題番号:220d0
  • 予算区分:民間活力による畜産生産技術研究開発推進事業・交付金
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:石田三佳、池口厚男、長谷川三喜、中久保亮、野中和久、向山洋(三洋電機)、藤井敏造(三洋電機)、大竹雅久(三洋電機)
  • 発表論文等:1)石田(2010)畜産技術、662:11-14
    2)石田(2011)Dairy Japan、1月号:32-34
    3)石田ら(2012)農業施設、42(4):178-187