放射性物質汚染サイレージは堆肥化により周囲を再汚染することなく減量できる

要約

放射性セシウムで汚染された牧草サイレージに対し、家畜ふん尿に準じた堆肥化処理を行うことにより、大幅な減量・減容が可能である。堆肥化過程における原料サイレージから周辺環境への放射性セシウムの放散や漏出は微少である。

  • キーワード:牧草サイレージ、堆肥化、放射性物質汚染、減量
  • 担当:バイオマス利用・畜産バイオマス
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜飼養技術研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

放射性セシウムを含む大量の2011年産1番草サイレージを処分するにあたり、処分方式にかかわらず、事前にできる限り減量・減容を図ることが望ましい。バイオマスの簡易な減量法として堆肥化が挙げられるが、堆肥化中の原料から周辺環境への放射性セシウム漏出の有無や程度が不明である。そこで、堆肥化過程における放射性セシウムの放散量・漏出量を吸引通気方式の堆肥化実験装置を用いて明らかにし、放射性物質汚染サイレージの安全な減量・減容手法の開発に資する。

成果の内容・特徴

  • 吸引通気堆肥化装置を用いると、堆肥化過程中の強制通気全量をフィルタで濾過することができる(図1左)。放射性セシウムを含む牧草サイレージ(放射能濃度は表2に示す)の堆肥化過程(10週間)において、通気のフィルタおよび装置周辺空気を吸引して濾過したフィルタからは放射性セシウムが検出されず(表1)、堆肥化中の通気による放射性セシウムの空気中への放散はほとんどない。
  • 堆肥化装置下部に溜まる結露水と瀝汁の合計(ドレイン)には放射性セシウムが含まれるが、その濃度は5~16Bq/kgと低い。ドレインの放射能は10週間分を合わせて200~400Bqであり(表1)、原料サイレージの放射能(表2)の0.1%以下と僅かである。
  • 堆肥化過程での有機物分解に伴い乾物量が減少し、吸引通気堆肥化装置では10週間後の乾物量は開始時の40%以下になり(図2)、容積は50%程度に減少する(データ略)。原料サイレージを容器内に無通気で静置した場合でも、10週間後には乾物量が50%以上減少する(図1右、図2)。
  • 堆肥の放射能濃度は乾物量の減少に見合って上昇し、10週間後には開始時の2~3倍に濃縮される(表2)。原料サイレージ中の放射能の堆肥内への残存率はほぼ100%であり、ほとんどの放射性セシウムは容器内に留まる。

成果の活用面・留意点

  • 飼料利用できないレベルに放射性物質で汚染された牧草サイレージを処分する際の前処理として、安全かつ簡易に減量・減容を行うことができる。ただし、堆肥化物の放射能濃度が高くなることに留意し、堆肥化後すぐに処分できずに一時貯留する際には、取扱い規則に従うとともに、堆肥化物の更なる発酵・分解にも注意する。
  • 放射性セシウムの大気への放散については吸引通気方式の堆肥化装置で得られた結果であり、圧送通気方式で原料中に吹き抜け箇所がある場合等では異なる可能性がある。ホイルローダ等による切り返し作業に伴う周囲への拡散は考慮していない。
  • 瀝汁には放射性セシウムが含まれるため、瀝汁を系外へ流出させないよう対策を施す。降雨や高水分サイレージに対しては注意を要する。一方、原料が乾燥しすぎると堆肥化が進展せず、粉塵発生の懸念もあるため、加水が必要となる場合がある。
  • サイレージの堆肥化過程においては、家畜ふんと同様にハエ等の昆虫が発生する。

具体的データ

図1 堆肥化方式の模式図図2 乾物重量比率の推移
表1 吸引空気およびドレインの放射能濃度
表2 堆肥化処理の前後の放射能濃度と堆肥内放射能残存率

(天羽弘一)

その他

  • 中課題名:畜産廃棄系バイオマスの処理・利用技術と再生可能エネルギー活用技術の開発
  • 中課題番号:220d0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:天羽弘一、阿部佳之、小島陽一郎