網を利用したMAP結晶化法による豚舎汚水中リンの除去回収技術

要約

豚舎汚水中にリン酸マグネシムアンモニム(MAP)の結晶が付着する網を入れて曝気することで、汚水中の水質汚濁物質であるリンを除去回収することができる。この方法により、1m3の豚舎汚水から32~171gのMAPを回収することができる。

  • キーワード:豚舎汚水、リン、MAP、結晶化反応、除去、回収
  • 担当:
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・畜産環境研究領域(浄化システム研究チーム)
  • 分類:普及成果情報(2008)

背景・ねらい

養豚経営で発生する豚舎汚水の中には水質汚濁物質であるリンが高濃度に含まれており、汚水を放流する前にリンを除去する必要がある。一方、リンは枯渇有限資源であるため、汚水中のリンを回収し再利用することも重要である。そこで、これらの問題を一挙に解決する方法として、豚舎汚水中のリンを結晶化して除去回収する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 豚舎汚水はリンを結晶化するリン酸マグネシムアンモニム(MAP)反応に有利な成分組成となっているため、曝気(汚水に通気する操作)により汚水中の炭酸ガスを追い出し、汚水のpHを8.0~8.5に上昇させることで、MAP反応を誘導することができる。この技術はMAPリアクター(図1)により実施することができ、水溶性リン酸濃度および全リン濃度を低減化できる。さらに、マグネシウム(Mg)液の添加により低減化効率を向上させることができる(表1)。
  • MAPリアクターの曝気筒中にステンレス金網製のMAP付着回収用部材(図2A、高さ80cm、直径63cm、3層のステンレスワイヤーメッシュ構造)を浸漬すると、その表面にMAPが付着・成長する(図2B)。MAPは回収用部材から容易に剥落でき(図2C)、天日にて数日で乾燥できる(図2D)(MAP付着回収法)。畜草研の豚舎汚水(水溶性リン酸濃度は70±16mg/L)を用いた実証試験の結果、1m3の豚舎汚水から32~171gのMAPを回収できた(表2)。回収量は日々大きく変動する豚舎汚水の各種成分濃度に影響されたと思われる。回収にかかる作業時間は約3時間/回であった。
  • 母豚100頭規模の一貫経営を想定した場合、設置コストはMAPリアクターを新設する場合は約250万円かかるが、既存の最初沈殿槽などの一部を区切り曝気設備を付設するなど既存設備の改造により構築する場合は100-150万円(MAP付着回収用部材抜きでは85-100万円)と低廉化が可能である。また、運転コストは電気代として年間5-9万円であり、Mg液を添加する場合は薬剤代として年間約3-9万円となる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 汚水中に含まれるリンの除去および回収を必要とする養豚事業所。
  • 普及台数等 2012年1月までに特許実施許諾1件、実証試験設備5基、実設備1基。
  • その他 ふん尿混合汚水など水溶性リン酸濃度の高い汚水ではリンの除去及び回収を目的として当該技術を利用することができる。また、ふん尿分離汚水など水溶性リン酸濃度の低い汚水ではリン除去を目的として当該技術を利用することができるが、その際はMAP付着回収にかかる設備は不要である。リアクター曝気部での発泡が激しい場合は、消泡剤の添加が有効である。回収したMAPの肥料としての効能は確認されている。畜産草地研究成果情報No.3, 59-60 (2004)に記載があるように、MAP付着回収用部材を構成する網の材質については表面が粗面であればなんでもよい。

具体的データ

図1 MAPリアクター図2 MAP付着回収法実証試験
表1 各運転条件下におけるMAPリアクターの処理性能
表2 MAP付着回収法実証試験の結果

(鈴木一好)

その他

  • 中課題名:畜産廃棄系バイオマスの処理・利用技術と再生可能エネルギー活用技術の開発
    (家畜生産における悪臭・水質汚濁等の環境対策技術の総合的検証と新たな要素技術の開発)
  • 中課題番号:220d0(214s)
  • 予算区分:交付金、委託プロ(バイオリサイクル)、実用技術
  • 研究期間:2002~2008年度
  • 研究担当者:鈴木一好、田中康男、黒田和孝、花島大、福本泰之、安田知子、和木美代子
  • 発表論文等:1) 鈴木ら「豚舎汚水からの燐回収装置」特許第4129953号
    2) Suzuki K. et al. (2005) Bioresource Technology 96(14):1544-1550
    3) Suzuki K. et al. (2007) Bioresource Technology 98(8):1573-1578