越夏性に優れるフェストロリウム新品種「那系1号」

要約

四倍体のフェストロリウム「那系1号」は、越夏性、葉腐病・冠さび病抵抗性に優れ、寒冷地北部(北東北の中標高以下)から比較的冷涼な温暖地までの府県広域(年平均気温9~13°C程度)を対象に採草用として利用できる。

  • キーワード:越夏性、採草用、フェストロリウム、飼料作物育種、耐病性
  • 担当:自給飼料生産・利用・飼料作物品種開発
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

フェストロリウムは、高品質・多収で耐湿性に優れたライグラス類(ペレニアルライグラスやイタリアンライグラス)と越冬・越夏性に優れたフェスク類(メドウフェスクやトールフェスク)を人為的に交雑させることによって、両種属の特性を合わせ持った新規牧草種(属間雑種)であり、主として四倍体と六倍体が存在する。そのうち四倍体のフェストロリウムは、東北地方を中心にイタリアンライグラスが越冬できない地域で利用できる高品質で多収な採草用の多年生牧草としての利用が期待される。
これまで寒冷地向きの四倍体フェストロリウム品種として耐湿性を有し転換畑で利用可能な採草用の「東北1号」と越冬性に優れ採草・放牧兼用の「イカロス」が育成されたが、これらの品種は温暖地における越夏性が不十分で永続性が低い。そこで越夏性にも優れ、東北北部の寒冷地から、比較的冷涼な温暖地に適した広域適応性の高い品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「那系1号」は、越夏性に優れる国内育成ライグラス品種・系統である「アキアオバ3」、「ハイフローラ」、「八ヶ岳H-2号」および「ヤツカゼ2」と、耐寒性に優れるメドウフェスク品種「トモサカエ」および「ファースト」の染色体倍加系統を交配して作出した属間雑種を元に、その後代から越夏性などの形質で集団選抜した四倍体フェストロリウムである。
  • 「那系1号」の乾物収量は、標準品種「東北1号」と比べて、試験期間合計99~135、平均で105であり、全ての場所において同等以上である(表1)。
  • 「那系1号」は、「東北1号」に比べて越夏性に優れ(表2)、そのため8月以降の乾物収量が全場所平均で「東北1号」より高い(図1)。また、越夏性に関連する病害である葉腐病および冠さび病抵抗性にも優れる(表2)。
  • 「那系1号」は、「東北1号」より出穂始日が6日早く、草丈が高い(表2)。また、越冬性、早春・秋の草勢、消化性(セルラーゼによる乾物分解率)、耐倒伏性、および採種性は「東北1号」とほぼ同等の水準にある(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 年平均気温が9~13°C程度の地域における採草利用に適する。
  • 寒冷地北部(北東北の中標高以下)では3年以上、比較的冷涼な温暖地(年平均気温13°C程度まで)では、2~3年程度の利用が見込める。

具体的データ

 表1~2

その他

  • 中課題名:水田・飼料畑・草地の高度利用を促進する飼料作物品種の育成
  • 中課題番号:120b0
  • 予算区分:交付金、実用技術
  • 研究期間:2001~2012年度
  • 研究担当者:内山和宏、荒川明、水野和彦、清多佳子、小松敏憲
  • 発表論文等:2013年度に品種登録出願予定