鶏におけるケトン体産生亢進は抗酸化能低下を引き起こす

要約

高脂肪、低炭水化物、低タンパク質の「ケトジェニック飼料」を鶏に給与すると、肝臓におけるケトン体産生が亢進し、血液中?-ヒドロキシ酪酸濃度が上昇する。このとき、血液中脂質成分は変動し、血液中総抗酸化能は低下する。

  • キーワード:ケトン体、ケトジェニック飼料、ニワトリ、酸化ストレス
  • 担当:自給飼料生産・利用・高機能飼料
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

肝臓での脂肪酸酸化の中間代謝物であり、肝外組織のエネルギー源であるケトン体は、鶏において孵化直後、絶食時にその産生が亢進する。また、ケトン体は、エネルギー源としてのみならず、様々な生理活性を有することが知られており、哺乳動物の研究では酸化ストレスの調節が報告されている。従って、鶏においてもケトン体産生亢進時に酸化ストレス応答が調節され、その健全性に影響を与えると考えられる。しかしながら、鶏におけるケトン体の酸化ストレスへの影響は、明らかにされていない。そこで、本研究では、栄養により鶏の健全性向上を試みるための生理学的知見を得ることを目的とし、哺乳動物でケトン体産生を亢進する高脂肪、低炭水化物、低タンパク質飼料である「ケトジェニック飼料」を鶏用に設計し、給与試験を行うことにより、ケトン体の鶏酸化ストレスに対する作用を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 産卵鶏(29週齢 メス)に、トウモロコシ、大豆粕主体の対照飼料(ME 2.93 Mcal/kg, CP 17%)、高脂肪、低炭水化物、低タンパク質の「ケトジェニック飼料」(表1)を4週間給与し、2週目、4週目に採血を行い、血液中ケトン体濃度(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸)、血中脂質成分濃度および総抗酸化能(PAO)を測定する。
  • ケトジェニック飼料を産卵鶏に給与すると、給与2週および4週で血液中β-ヒドロキシ酪酸濃度は対照飼料に比べ有意に上昇する(図1a)。アセト酢酸濃度はケトジェニック飼料給与による影響を受けない(図1b)。
  • 血液中脂質成分に対するケトジェニック飼料給与の影響としては、血液中遊離脂肪酸濃度および総コレステロール濃度が、ケトジェニック飼料給与により上昇し、トリグリセリド濃度は低下する(表2)。
  • 血液中総抗酸化能は4週間のケトジェニック飼料給与により低下する(図2)。
  • 以上のように、産卵鶏においてケトン体の産生が亢進すると、血液中βヒドロキシ酪酸濃度が上昇し、血液中脂質成分が変動すると共に、血液中総抗酸化能の低下、つまり酸化ストレスの誘導が起きる。

成果の活用面・留意点

  • ケトジェニック飼料給与による、産卵鶏ケトン体産生亢進モデルにおけるケトン体の抗酸化能低下作用を示す基礎的知見である。
  • 酸化ストレスマーカーの1つであるTBARSは、産卵鶏においてケトジェニック飼料給与により低下し、総抗酸化能とは逆の反応を示すため注意が必要である。

具体的データ

 表1~2,図1~2

その他

  • 中課題名:国内飼料資源を活用した高機能飼料の調製利用技術の開発
  • 中課題番号:120c7
  • 予算区分:科研費、交付金
  • 研究期間:2007~2008年度
  • 研究担当者:大津晴彦、山崎信、村上斉、阿部啓之
  • 発表論文等:Ohtsu H. et al. (2013) J. Poult. Sci. http://dx.doi.org/10.2141/jpsa.0120161