卵子成熟培地へのミルリノン添加によりウシ核移植胚の作製効率が向上する

要約

レシピエント卵子を作製する目的でウシ卵子を体外成熟させる際、cAMP分解酵素の阻害薬であるミルリノンを培地に添加すると、除核処理の成功率および核移植後の胚盤胞への発生率が高くなり、核移植胚の作製効率が76%向上する。

  • キーワード:レシピエント卵子、体外成熟、cAMP分解酵素阻害剤、ミルリノン、除核
  • 担当:家畜生産・有用家畜作出
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜育種繁殖研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ウシ核移植胚を効率的に生産するためには、発生能力の高いレシピエント卵子を豊富に準備することが重要である。そのためには体外成熟卵子を活用することが最も効果的であり、そこに優れたレシピエント卵子を作製する成熟培養方法があれば、さらに効率的なシステムとなる。卵子の成熟に深く関与している細胞内の情報伝達物質としてサイクリックAMP(cAMP)がある。そこで、cAMPの分解酵素の阻害薬であるミルリノン(100 µM)を含む培地で卵子を成熟させ、効率的に核移植胚を作製する方法を開発することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 成熟卵子の中心から第一極体を結ぶ直線と、中心から卵子内の染色体を結ぶ直線が交わる角度を調べると、30度以内におさまる卵子の比率はミルリノン添加区において対照区よりも有意に高くなる(図1)。すなわち、除核操作の指標となる第一極体と除去されるべき染色体の位置が近くなる。
  • ミルリノン添加培地で卵母細胞を成熟させると、第一極体の位置を指標に顕微操作で行う除核処理の成功率が対照区よりも有意に高くなる(図2)。
  • ミルリノン添加培地で成熟させた卵子をレシピエントとして使用すると、核移植後の融合胚から胚盤胞への発生率が対照区よりも有意に高くなる(図3)。
  • 上記1および2の効果の合算により、培養した全卵子数における核移植胚の発生率は、ミルリノン添加区(14.2%、21/148)が対照区(8.1%、12/149)よりも有意に高くなる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ウシ体外成熟卵子の核移植技術において、新たな基本の培養条件として活用できる。通常の顕微操作ではウシ卵子の染色体は視認できないので、その場合に有効である。
  • 生体内では卵母細胞の成熟開始時(LHサージ後)に卵母細胞・卵丘細胞のcAMPが上昇する。本技術の作用機序としては、ミルリノンによって生体内により近い情報伝達が開始された可能性がある。
  • ミルリノンには第一極体放出のタイミングを対照区よりも短い時間帯内に揃える作用もある。実施の際に使用される培養条件下での第一極体放出時期の確認が推奨される。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:生殖工学を用いた有用家畜作出技術の開発
  • 中課題番号:130c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:平尾雄二、伊賀浩輔、竹之内直樹、志水 学、赤木悟史、ソムファイ タマス 成瀬健司
  • 発表論文等:Naruse, K., et al. (2012) J. Reprod. Dev. 58(4): 476-483