泌乳牛へのメチオニン給与はグレリン分泌を促進する

要約

泌乳牛に長鎖脂肪酸カルシウムを給与するとグレリン分泌が高まり、ルーメンバイパスメチオニンを併給するとさらにグレリン上昇する。この機構は、脂質代謝に対するメチオニンの制御作用と関連する。

  • キーワード:泌乳牛、メチオニン、グレリン
  • 担当:家畜生産・代謝制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

乳牛の泌乳能力の向上とともに、高エネルギー飼料の利用も増えている。特に長鎖脂肪酸カルシウム(LCFA-Ca)はエネルギー供給を目的として広く普及しているが、同時に内因性のグレリン分泌を増加させることが報告されている。グレリンは成長ホルモンの分泌促進や採食量増加、エネルギー調節に重要な働きを担っている消化管ホルモンである。一方、実験動物ではメチオニン(Met)が脂質代謝を介してグレリン分泌を刺激することが証明されており、乳牛においてもMetによるグレリン分泌促進の可能性が考えられる。 本研究では、長鎖脂肪酸カルシウムとルーメンバイパスMet(RB-Met)の併給によるグレリン分泌の相乗効果について検討する。

成果の内容・特徴

  • 泌乳中期から後期の乳牛にLCFAを乾物中1.5%、RB-Metを1日20g給与する。試験処理区をLCFA-Ca区、RB-Met区、LCFA+Met区、対照区とする。試験は1期2週間の4×4ラテン方格で実施する。
  • LCFA-Ca区では対照区に比べて血漿グレリン濃度が高まる。RB-Metを併給するLCFA+Met区のグレリン濃度は、LCFA-Ca区をさらに上回る(図1)。RB-Metだけを給与するRB-Met区の血漿グレリン濃度は対照区と同じレベルである。
  • 1日当たりの乾物摂取量は、LCFA-Ca区が対照区に比べて有意に低下するが、RB-Metを併給することで乾物摂取量の有意な減少は認められなくなる(図2)。RB-Met区の乾物摂取量は対照区と同程度である。
  • 血漿中遊離脂肪酸(NEFA)、中性脂肪(TG)、および総コレステロール(T-CHO)濃度は、LCFA-Ca給与によって高まるが、LCFA+Met区では対照区およびRB-Met区と変わらないレベルを示す(図3)。
  • これらの結果は、Metがグレリン分泌増加の促進および乾物量摂取低下の抑制に有効な機能性成分であることを示唆している。

成果の活用面・留意点

  • 高泌乳牛の栄養管理にRB-Metを有効利用するための知見である。
  • 栄養素によるグレリン分泌制御の可能性につながる成果である。
  • 本成果は泌乳前期の乳牛では未検討である。
  • 中鎖脂肪酸カルシウムの給与でもグレリン分泌は促進されるが、RB-Metの併給によるグレリン濃度の更なる増加は認められない。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:家畜の生産効率と健全性の安定的両立を可能にする飼養管理技術の開発
  • 中課題番号:130d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:櫛引史郎、新宮博行、小林寿美、山地佳代子、守谷直子
  • 発表論文等:1) Fukumori. R. et al. (2012) Domest Anim Endocrinol 42:74-82