カシューナッツ殻液は牛胃内のメタン生成に関連する微生物を減少させる
要約
カシューナッツ殻液を含む製剤を反すう家畜に給与すると、第一胃内のメタン生成古細菌が減少するとともに、メタン生成の材料を供給する水素・ギ酸産生菌も減少し、ルーメン発酵に由来するメタンガス発生量が抑制される。
- キーワード:メタン低減、ルーメン発酵、カシューナッツ殻液、ルーメン細菌
- 担当:家畜生産・第一胃発酵・産肉制御
- 代表連絡先:電話 029-838-8611
- 研究所名:畜産草地研究所・家畜生理栄養研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
反すう家畜第一胃(ルーメン)に生息する微生物は、飼料を分解し発酵することにより、家畜に栄養を供給している。一方、ルーメン発酵に由来するメタンガス(温室効果ガス)は、全球におけるメタンの年間発生量の約3割を占めるなど、環境負荷要因であるだけでなく、飼料摂取エネルギーの最大15%の損失となることから、その低減が期待される。 抗菌成分を含むカシューナッツ殻液(CNSL)製剤を反すう家畜に給与すると、飼料消化率を落とさずにメタン生成量を低減できるが、その低減メカニズムは明らかになっていない。そこでCNSL製剤給与時のルーメン微生物相の変化を解析することで、メタン生成の低減メカニズムを明らかにする。
成果の内容・特徴
- 乾乳期のホルスタイン牛を、濃厚飼料とチモシー一番乾草を6:4の割合で給与し(乾物摂取量14-15 kg/日)、次いでCNSLを22%含有するCNSL製剤を1日100 kg体重当たり4g CNSL当量給与する。CNSL製剤無添加区(コントロール区)およびCNSL製剤添加区で代謝・呼吸試験を実施する。各試験区の代謝・呼吸試験前後にルーメン液を採取し、ルーメン微生物相を分子生物学的に解析するとともにルーメン液性状を明らかにする。
- CNSL製剤の給与により、ルーメン内のメタン生成古細菌数およびメタン生成関連遺伝子の発現量が減少する(図1)。
- CNSL製剤の給与により、メタン生成の材料となる水素やギ酸を生成する繊維分解性菌が減少する。一方、水素を消費する発酵経路を利用するプロピオン酸・コハク酸産生菌の割合は増加する(図2)。
- 繊維分解菌の多くが減少するが、主要繊維分解菌であるFibrobacter succinogenesのルーメン内密度は維持される(図2)。
- ルーメン液中の酢酸濃度および短鎖脂肪酸濃度は減少する。一方、プロピオン酸の相対割合は増加する(表1)。
成果の活用面・留意点
- CNSL製剤を利用したルーメン発酵由来メタン低減のメカニズムを示す基礎的知見として活用できる。
- CNSL製剤のメタン低減における有効給与量は、乾物摂取量によって変化する可能性がある。
具体的データ
その他
- 中課題名:第一胃内発酵制御因子の解明と栄養制御による産肉特性改善
- 中課題番号:130e0
- 予算区分:実用技術
- 研究期間:2008?2010年度
- 研究担当者:真貝拓三、三森眞琴、永西 修、樋口浩二、小林洋介、竹中昭雄
- 発表論文等:Shinkai T. et al. (2012) J. Dairy Sci. 95 :5308–5316