乳酸菌が生産するプラスミノーゲンを活性化する因子
要約
Lactococcus lactis ssp. lactis NIAI C59株は、ヒトおよびウシプラスミノーゲンを活性化しプラスミン活性を発現させる。該活性はNIAI C59株の生育定常期に生産され、熱および広範囲のpHに安定であり、pH 10.0以上の緩衝液により菌体から容易に抽出される。
- キーワード:乳酸菌、乳製品、プラスミノーゲン、プラスミン、プラスミノーゲン活性化
- 担当:加工流通プロセス・品質評価保持向上
- 代表連絡先:電話 029-838-8611
- 研究所名:畜産草地研究所・畜産物研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
プラスミノーゲン(Plg)は血中に存在するプロテアーゼプラスミンの不活性前駆体である。Plgは活性化因子の作用によりプラスミンに変換され、血栓素となるフィブリノーゲンやフィブリンを溶解する。生体におけるPlg活性化因子(PA)は組織Plg活性化因子(tPA)およびウロキナーゼであるが、細菌が生産するストレプトキナーゼやスタフィロキナーゼもPlgを活性化することが知られている。また、乳酸菌に由来するPA活性はこれまで報告がない。
牛乳中にはPlgおよびプラスミンが含まれており、β-カゼインに作用してγ-カゼインとプロテオースペプトンを生成するなど乳タンパク質の分解を行っている。また、チーズの熟成において乳中プラスミン活性が関与することが示唆されている。今回は、PA活性を生産する乳酸菌を探索し、該活性のいくつかの性質を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 各種乳酸菌をMRSまたはM17培地で14時間培養し菌体を調製した。ヒトPlgおよびプラスミン基質(Tosyl-Gly-Pro-Lys p-nitroanilide)を含むpH 7.4の緩衝液に菌体を一定量加え、30ºCで一定時間反応後、405nmの吸光度を測定して遊離したp-ニトロアニリンを定量したところ、Lactococcus lactis ssp. lactis NIAI C59株とNIAI 527株、およびLactobacillus paraplantarum NIAI C75株に高いPA活性を見いだした(図1)。Plg非存在下では405nmの吸光度の増加は認められない。
- NIAI C59株はヒトPlgだけでなくウシPlgも活性化する。
- PA活性は、100ºC、10分加温に対して非常に安定であり、また、pH 3.0-9.0の範囲では30ºC、3時間処理で活性低下はほとんど認められない。
- NIAI C59株培養中のPlg活性化能は、生育定常期である培養15時間後から増加し、21時間後にプラトーに達する(図2)。
- 菌体をpH 10.0以上の緩衝液で洗浄すると、1回の洗浄操作で80%以上の活性が洗浄液へ移行する。
成果の活用面・留意点
- 乳酸菌のPA活性に関する初めての知見である。高いPA活性を示したNIAI C59株、NIAI 527株、およびNIAI C75株から、最も高活性のNIAI C59株を選択し以降の試験を実施した。NIAI C59株はチーズから分離された乳酸菌である。
- 高PA活性株は菌種には依存せず菌株特異的である。
- 該活性は菌体から容易に抽出できるため、菌体だけでなく無細胞抽出物もPlg活性化剤として利用可能である。
具体的データ
その他
- 中課題名:農畜産物の品質評価・保持・向上技術の開発
- 中課題番号:330a0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2008~2012年度
- 研究担当者:野村将
- 発表論文等:Nomura M. (2012) Biosci. Biotech. Biochem. 76(8):1459-1462