食肉脂肪の結晶状態の非破壊評価法
要約
食肉の品質と価格に影響する食肉脂肪の結晶度および結晶多形の種類と含量は、可搬型ラマン分光装置を用いることで、食肉生産や格付の現場において非破壊かつ簡便に評価できる。
- キーワード:脂肪、結晶度、結晶多形、品質評価、食肉
- 担当:加工流通プロセス・品質評価保持向上
- 代表連絡先:電話 029-838-8611
- 研究所名:畜産草地研究所・畜産物研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
冷却された食肉脂肪の結晶状態(結晶度と結晶多形の種類や含量)は、食肉脂肪のかたさ等の物性を決め、食肉の品質と価格に影響する。しかし、食肉脂肪の結晶度や結晶多形を、食肉生産の現場で枝肉の状態のまま非破壊かつ簡便に評価できる方法はない。ラマン分光は分子の構造解析に長年用いられている非破壊分析法であり、近年、光ファイバープローブを備えた使いやすい可搬型機が開発されている。そこで、可搬型ラマン分光装置を用いて、枝肉脂肪の結晶状態の非破壊評価法を開発する。
成果の内容・特徴
- 光ファイバープローブを備えた可搬型ラマン分光装置(785-nm励起)を用いて、冷却・冷蔵保存中の枝肉(剥皮)の皮下脂肪のラマンスペクトルを得る(図1)。
- スペクトル中の特定のバンドの強度を利用した式1および2より、枝肉に付着した水や温度変化の影響を受けることなく、脂肪の結晶度と結晶多形の種類と含量を非破壊的に評価することができる(図2)。
式中、Iはバンド面積、下付き文字はバンドの波数を表す。I1297+I1305は、脂肪を構成する炭化水素鎖の量に対応するスペクトル内部標準であり、温度に依存しない。I1130は結晶中に存在しているall-trans型炭化水素鎖の量、I1418はβ'型結晶多形特有の結晶格子中に含まれる炭化水素鎖の量に、それぞれ対応する。1.3および1/0.493は強度補正係数である。
- 豚枝肉の皮下脂肪(ロイン部皮下脂肪外層組織(第3-4腰椎部))の結晶度は、と畜20分後から4.3°Cにて冷却・冷蔵保存をおこなう場合、枝肉の冷却がほぼ完了し格付がおこなわれる冷却開始24時間後までに約30%に上昇し、そのうちの約三分の一がβ'型結晶多形である(図2)。残る三分の二はβ型およびα型であると推定される。24時間後以降は、結晶状態に顕著な変化は見られない。
成果の活用面・留意点
- 脂肪は特徴的な強いラマンバンドを持ち、また脂肪組織の主成分であるため、生体試料に特有の問題である蛍光や脂肪以外の成分由来のラマン散乱光は問題にならない。これらの問題がないことが確認できれば、食肉だけでなく脂肪を基材とする他の食品についても本法を応用可能である。
- 本法による測定値は、抽出油脂に応用されている核磁気共鳴法や熱分析などの手法により求められる値と必ずしも一致しない。
具体的データ
その他
- 中課題名:農畜産物の品質評価・保持・向上技術の開発
- 中課題番号:330a0
- 予算区分:交付金、科研費、委託プロ(国産飼料)
- 研究期間:2011~2012年度
- 研究担当者:本山三知代、千国幸一、成田卓美、相川勝弘、佐々木啓介
- 発表論文等:Motoyama M. et al. (2013) J. Agric. Food Chem. 61:69-75