放射性セシウム含有堆肥施用に伴う飼料用トウモロコシへの放射性セシウム移行

要約

放射性セシウム(Cs)を3,800Bq/kg含む牛ふん堆肥を7t/10a施用し栽培した飼料用トウモロコシでは、放射性Cs濃度が3Bq/kg(水分80%換算)上昇した。このとき堆肥から作物への放射性Csの移行程度は土壌よりも低く、作物の放射性Cs濃度への影響は小さい。

  • キーワード:飼料用トウモロコシ、放射性セシウム、牛ふん堆肥
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域、家畜飼養技術研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

飼料作物への放射性Csの移行抑制が重要な課題となっている。これまでに、一作あたり牛ふん堆肥3t/10a程度の継続的な施用が、飼料用トウモロコシの放射性Cs低減に有効であることを明らかにした。しかしながら、一方で、堆肥が放射性Csを含む場合もあり、このような堆肥を施用した場合の飼料作物の放射性Cs濃度への影響を不安視する声もあることから、放射性Csを含む牛ふん堆肥を施用し、飼料用トウモロコシへの移行について調査した。

成果の内容・特徴

  • 畜産草地研究所那須研究拠点において、永年草地の表層0-10cm程度を油圧ショベルで除去し、堆肥中放射性Cs濃度の暫定許容値(製品重量あたり400Bq/kg)を大幅に超える3,800Bq/kgの牛ふん堆肥(水分39%)を、施肥基準等で推奨される施用量の倍量程度の7t/10a施用後、ロータリー耕により堆肥と土壌を混和・攪拌して、飼料用トウモロコシを栽培した。非汚染堆肥区には、放射性Cs濃度を32Bq/kg含む堆肥(水分56%)をカリ投入量が同じとなるよう9.9t/10a施用した。両区の堆肥施用量の違いは水分の違いによる。
  • 栽培後に採取した0-20cm深土壌の放射性Cs濃度は、非汚染堆肥区26Bq/kg乾土、汚染堆肥区122Bq/kg乾土であった(図1)。
  • 堆肥施用前の土壌交換性カリは8mgK2O/100g乾土と低かったが、堆肥にはカリ成分が含まれているため、栽培後土壌の交換性カリ含量は40mgK2O/100g乾土程度まで、大幅に上昇していた。非汚染堆肥区と汚染堆肥区の交換性カリ含量は同等であった(図2)。
  • 地際から高さ10cmで収穫した飼料用トウモロコシの放射性Cs濃度は、非汚染堆肥区に比べて約3Bq/kg(水分80%換算値)上昇し、高濃度に汚染された堆肥を多く施用すると、堆肥中の放射性Csが飼料用トウモロコシに移行することが確認された(図3)。
  • しかしながら、堆肥施用に伴う土壌および作物の放射性Cs濃度の増加分について、移行係数の算出方法に準じて移行程度を計算すると0.032であり(表1)、非汚染堆肥区の土壌からの移行係数0.092よりも低い値であった。
    さらに、この堆肥からの移行程度の測定結果から、堆肥中の放射性Cs濃度が肥料の暫定許容値である400Bq/kgの堆肥を5t/10a施用して飼料用トウモロコシを栽培した場合の影響を試算すると、作物体中濃度の増加は約0.23Bq/kg(=3(Bq/kg水分80%換算,作物濃度)×400÷3800(Bq/kg,堆肥濃度)×5÷7(t/10a,堆肥施用量) )と計算され、放射性Csを含む堆肥を施用しても作物の放射性Cs濃度への影響はごく小さいものと考えられた。

成果の活用面・留意点

  • 県及び農協等、指導機関の関係者及び生産者に参考となる情報である。
  • 堆肥中の放射性Csの暫定許容値は、畜産農家が自らの圃場に還元する等の例外を除き、400Bq/kg(製品重量)である。
  • これまでの調査において土壌から飼料用トウモロコシへの放射性Csの移行係数は、土壌や栽培条件等による変動が大きい。本試験で得られた0.092は高めの値であり、生育を確保するため窒素多施肥条件としたこと等が関係すると考えられる。

具体的データ

図1~3、表1

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題番号:510b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012年度
  • 研究担当者:原田久富美、天羽弘一、阿部佳之、小島陽一郎、須永義人、川地太兵