飼料用イネにおける放射性セシウム濃度に及ぼす養分管理と刈り取り高さの影響

要約

牛ふん堆肥の継続的な施用によりカリ施用効果が得られ、飼料用イネの放射性セシウム(Cs)濃度の抑制に有効である。一方、窒素肥料の多肥は放射性Cs濃度を高める傾向がある。放射性Cs濃度は株元に近いほど高く、刈り取り高さを高くすることで低減できる。

  • キーワード:飼料用イネ、放射性セシウム、移行係数、堆肥、カリ、窒素
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域、家畜飼養技術研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

水稲では放射性Csの移行抑制のため、土壌交換性カリが25mg K2O /100g乾土などの目標値以上となるようカリ肥料を施用することが有効である。一方、飼料用イネでは、多収を得るため1.5~2倍量の窒素施肥が推奨されているが、窒素多肥により土壌のアンモニア態窒素濃度を高めて、土壌から作物への放射性Cs移行を促進することが懸念される。また、耕畜連携による堆肥施用が推奨されているが、堆肥には移行抑制に有効なカリ成分とともに窒素成分も含まれている。そこで、窒素多肥と堆肥施用が飼料用イネの放射性Cs移行に及ぼす影響を解明する。さらに、飼料用イネ地上部への放射性Cs移行係数、収穫時期や刈取り高さの影響など、放射性セシウム移行に関わる基本情報についても明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2011年に6水田で調査した黄熟期の飼料用イネ地上部の放射性Cs移行係数は、圃場間に0.001~0.029の範囲だった(表1)。他に比べて移行係数が高い圃場の養分管理として、交換性カリ含量が低い(圃場A)、交換性カリが十分でない条件でカリ成分を施用せずに窒素肥料を多肥する(圃場C)などの特徴が見られる。
  • 2011年に比べて、2012年ではイネ地上部の放射性Cs濃度は54~83%減少した(表1)。134Cs/137Cs構成割合と半減期から算出した放射性崩壊による減少は14%と推定され、2012年では、土壌から飼料用イネに放射性Csが移行しにくくなっていると考えられる。
  • 交換性カリが8mg K2O /100g乾土と低い条件で十分なカリ肥料を施用せずに、窒素肥料を多肥すると、粗玄米中の放射性Cs濃度が大きく上昇する傾向が見られる(図1)。一方、牛ふん堆肥を継続的に施用した場合、交換性カリが維持され、窒素多肥による放射性Cs濃度上昇も抑制される(図1)。つまり、カリ成分を含む牛ふん堆肥の継続的な施用は、カリ肥料の施用と同様に移行抑制に有効と考えられる。
  • 黄熟期に手刈りで収穫したイネ地上部の放射性Cs濃度は株元に近いほど高くなる(図2)。乾物収量は刈取り高さを8cm高くする毎に5%低下するものの、放射性Cs濃度は刈取り高さ8cmの場合に比べ、16cmで24%、24cmで36%低下する。そのため、原料草の放射性Cs濃度の低減が必要な場合には刈り取り高さを高く設定することが有効である(図3)。
  • 黄熟期と成熟期では、イネ地上部の放射性Cs濃度はほぼ同じである(結果省略)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 県及び農協等、指導機関の関係者及び生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 原発事故により土壌に放射性Csが沈着した南東北~関東の飼料用イネ作付け水田13,000ha(2012年)に適用可能である。
  • その他 化学肥料による窒素多施肥による放射性Cs濃度への影響は土壌の養分条件等により異なる。堆肥のカリ濃度にはばらつきがあるため、定期的に土壌診断、堆肥分析を行うことが望ましい。

具体的データ

 表1,図1~3

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題番号:510b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(国産飼料、放射能)
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:原田久富美、伊吹俊彦、草佳那子、箭田(蕪木)佐衣子、石川哲也、佐藤誠(福島農総セ)、藤田智博(福島農総セ)、藤村恵人(福島農総セ)、佐久間祐樹(福島農総セ)、江上宗信(福島農総セ)、朽木靖之(福島農総セ)、斎藤 栄(栃木畜酪研)、上野源一(栃木畜酪研)、佐田竜一(栃木畜酪研)、増山秀人(栃木畜酪研)