更新草地において牧草への放射性セシウムの移行を低減する交換性カリ含量

要約

更新草地の牧草の放射性セシウム濃度に関係する主要な土壌化学性は、交換性カリ含量、放射性セシウム捕捉ポテンシャルである。更新草地において牧草への放射性セシウムの移行を低減するための0-15cm深の交換性カリ含量の目標値は、30~40mg-K2O/100gである。

  • キーワード:放射性セシウム、牧草、交換性カリ含量、放射性セシウム捕捉ポテンシャル
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域、飼料作物研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

牧草の放射性セシウム濃度を低減させるための除染事業として草地更新が実施されている。しかしながら、農林水産省のまとめでは、2012年の調査において、更新草地の8%で暫定許容値(100Bq/kg)を超えていた。このような暫定許容値超過を回避するため、牧草中放射性セシウム濃度が高くなった草地を中心に土壌化学性を検討し、草地更新時に注意すべき点を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2012年に暫定許容値の超過がみられた草地を中心に行った調査では、牧草の放射性セシウム濃度(対数値)に関係する主要な土壌(0-15cm深)の化学的要因は、放射性セシウム保持力の指標である放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP、対数値)、交換性放射性セシウム含量(対数値)および交換性カリ含量(対数値)であった(図1)。
  • 土壌タイプの影響として、リン酸吸収係数の高い黒ボク土の牧草中放射性セシウム濃度は、非黒ボク土よりも高かった。この理由として、RIPは土壌の粘土鉱物組成の違いに影響を受けることが知られ、この値が小さいほど土壌の放射性セシウム保持力が小さいことを示す指標であることから、黒ボク土の放射性セシウム保持力が低かったことが関係すると考えられる(図1、表1)。
  • 土壌から牧草への放射性セシウムの移行係数と牧草の放射性セシウム濃度は、0-15cm深土壌の交換性カリ含量が20mg-K2O/100g以下で著しく高くなる場合が見られる。一方、交換性カリ含量が30~40mg-K2O/100g以上では、牧草の放射性セシウム濃度は暫定許容値を超過する場合もあるが、移行係数は低く抑えられていた(図2)。
  • 更新草地において牧草への放射性セシウムの移行を低減するための0-15cm深の交換性カリ含量の目標値は、30~40mg-K2O/100gである。

普及のための参考情報

  • 普及対象:県などの指導機関の関係者および生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:岩手、宮城、福島、栃木、群馬県の除染対象となっている38,000haの牧草地
  • その他:暫定許容値を超過した草地を中心に調査した結果であり、図1、表1の結果は黒ボク土草地全体の特性とは言えない。交換性カリ含量を高めても、一部の更新草地では牧草の放射性セシウム濃度を暫定許容値以下にできない場合がある。除染のための草地更新においては、カリ施肥とともに、pH矯正や丁寧な耕起作業による砕土と耕起深の確保が重要である。交換性カリ含量が30~40mg-K2O/100gの場合には、牧草のミネラルバランスが悪化するため、苦土石灰の施用や飼料給与量の調整に留意する必要がある。

具体的データ

図1~2、表1

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題整理番号:510b0
  • 予算区分:科学技術戦略推進費、被災地粗飼料生産利用推進調査等事業
  • 研究期間:2012年度
  • 研究担当者:山田大吾、原田久富美、渋谷岳、山口紀子(農環研)、佐藤直人(岩手県農研セ畜研)、中鉢正信(宮城県畜試)、荒木利幸(宮城県畜試)、小野寺伸也(宮城県畜試)、武藤健司(福島県農総セ畜研)、吉田安宏(福島県農総セ畜研)、斎藤栄(栃木県畜酪研)
  • 発表論文等:
    1)岩手県除染プロジェクトチーム(2012)岩手県牧草地除染マニュアル
    2)福島県農林水産部農業振興課(2014)農作物の放射性セシウム対策に係る除染及び技術対策指針
    3)栃木県(2013)牧草地除染マニュアル