ニホンジカによる採草地の牧草被害率の簡易推定と電気柵導入決定支援シート

要約

採草地において、ニホンジカによる牧草の食害を防ぐプロテクトケージを設置し、その内外の草高を比較することで、ニホンジカによる牧草被害を簡便かつ定量的に評価できる。さらに、被害対策として電気柵を導入する意志決定に支援シートが活用できる。

  • キーワード:簡易評価、獣害、ニホンジカ、プロテクトケージ、牧草、採草地
  • 担当:自給飼料生産・利用・公共牧場高度利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

公共牧場の多くは山間地に立地するため、その多くでニホンジカによる牧草の食害が発生し、生産活動の大きな阻害要因となっている。公共牧場の利用促進には、こうした獣害による飼料生産ロスを把握し、獣害防除に捻出可能な経費とのバランスを考えて効果的かつ効率的な獣害対策を各牧場で進める必要がある。そこで、ニホンジカによる牧草被害を簡便に測定・評価する手法を開発し、公共牧場の効率的な経営に役立てる。

成果の内容・特徴

  • 本方法は、採草利用される牧草地において、ニホンジカによる牧草の食害を防ぐプロテクトケージを設置し、その内外の草高を測定して比較することにより、ニホンジカによる牧草被害を簡便かつ定量的に評価するものである。
  • 1m四方のプロテクトケージの内と外において、周辺と比べて極端に高すぎたり低すぎたりしない平均的な牧草を選び、その高さ(草高)をそれぞれ5点測定し、その平均値の内外差がプロテクトケージ内の草高の平均値に占める割合を牧草被害率とする(図1)。この草高を用いた被害率は、刈取り法(草量)により評価した実際の被害率との間に有意な相関関係が認められる(図2)。
  • 牧草被害率を測定するのに必要なプロテクトケージ数は1草地(2?3ha)あたり10個程度でよいが(図3)、被害率が20%未満の場合は推定誤差が大きくなるため(図2)、参考値程度の利用に留める。
  • 電気柵導入決定支援シート(図4)の「計算シート」へ草高データを入力すると被害率が算出できる。さらに、自分の圃場に関する各種データを入力することにより、生産者は、測定した牧草被害率から推定された被害額と、被害対策として電気柵を導入した場合のコストを簡便に比較することが可能となり、被害対策資材導入の意思決定に役立てられる。本支援シートの適用は、推定誤差の少ない被害率20%を超えた条件で行う。

普及のための参考情報

  • 普及対象:牧草を採草利用している公共牧場、コントラ組織、畜産農家
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:ニホンジカの出没する全国の採草利用牧草地。関東地域の2牧場で導入されている。
  • 牧草の刈り取り時期直前までプロテクトケージを設置することが望ましいが、2週間以上設置することにより、実用上十分な被害率の推定精度が得られる。
  • 1m四方の小型プロテクトケージ使用時の資材費単価(1?2m金網フェンス2枚、6?250mmペグ2本、結束バンド2本)は900円程度、1草地(2~3ha)あたりの総資材費は10,000円程度である(予備を含めてプロテクトケージ11個/草地を使用)
  • 電気柵導入コストの試算は、設置単価(6)および耐用年(7)を当該値に置き換えれば、恒久柵等の別の対策資材導入コストの試算にも応用可能である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:預託期間拡張を可能とする公共牧場高度利用技術の開発
  • 中課題整理番号:120c4
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:塚田英晴、喜田環樹、北川美弥
  • 発表論文等:Tsukada et al. (2013) Grassl. Sci. 59: 146-155