鶏ふん乾燥処理実施設の温室効果ガスの測定により精緻化された排出係数

要約

鶏ふん乾燥処理実施設の温室効果ガス排出量の評価が、農家作業に支障ない測定機材の設置で可能である。メタン排出は鶏ふん有機物の0- 0.25 % (gCH4/g有機物)であり一酸化二窒素排出は鶏ふん窒素の0- 0.58 % (gN2O-N/g全窒素)である。

  • キーワード:温室効果ガス、気候変動、日本国インベントリ、排出係数、一酸化二窒素
  • 担当:気候変動対応・畜産温暖化適応
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・畜産環境研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

家畜排せつ物起源の温室効果ガス(GHG)排出は環境にやさしい日本農業推進のため削減が求められている。しかし、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)排出量について実施設からの測定事例の知見は少ない。国家インベントリ精緻化とともに温室効果ガス排出削減方策の開発と削減効果の検証に必要な実施設での測定システムが求められている。乾燥処理技術は我が国の主な鶏ふん処理方式の一つであるが、排出係数に関してはIPCCのデフォルト値が採用されて算出が行われている(IPCC-Good Practice Guidance(GPG)2000)。

成果の内容・特徴

  • 調査対象乾燥処理施設の測定対象ガス濃度は、マルチガスモニタ-により1時間毎に3ヶ所で測定を行って濃度変化を把握する。換気環境を把握するため、図1に示す施設内の数カ所と乾燥施設外で風向風速測定とともに温度と湿度を測定する。乾燥施設内は乱流であるため、施設側面全体をシートで覆い、排気方向のみの風速を測定する。(図1)
  • 本測定システムは、排気口断面の平均風速を図2の試作風速測定装置を設置した図3のトンネル換気量測定装置で検証を行った上で、決定されている(平成21 年度農林水産分野における地球温暖化対策調査)。最小限の測定機材構成が図1のように工夫され、農家のふん尿搬入・搬出作業の妨げにならないため、連続的な測定が可能である。
  • 各ガスの排出係数は各測定期間に搬入された鶏糞中の有機物(Volatile Solid)あるいは窒素あたりの発生割合(gCH4/g VS、gNH3-N/g TN、gN2O-N/g TN)で評価される(IPCC2007)。本測定で、夏期でNH3-Nは13.50%、N2O-Nは0.51%、CH4は0.13%となり、冬期でNH3-Nは4.56%、CH4は0.17%でN2O-Nは0.01%以下である。
  • CH4の排出係数は、現行の2012年度インベントリと同程度(0.20%(gCH4/gVS))であり、現行インベントリを追認する結果となった(表1)。
  • N2Oは2.0%(gN2O-N/gTN)と示された現行インベントリに比較して約1/10の低い値であった(表1)。現行の2.0%という排出係数は算出根拠が明示されていないIPCCのデフォルト値(IPCC-GPG2000)であり、本実測調査で得られたデータを根拠とし、2014年2月の環境省における委員会を経て2014年4月提出の日本国インベントリに反映される。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農林水産省関係部署、環境省地球環境局、養鶏関連団体
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:日本全国

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:畜産由来の温室効果ガス制御技術の高度化と家畜生産の温暖化適応技術の開発
  • 中課題整理番号:210c0
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:長田隆、川瀨芳順、原田泰弘、土屋いづみ(石川畜試)、石田三佳、悦永秀雄(石川畜試)、堂岸宏(石川畜試)
  • 発表論文等:
    1)土屋ら(2014)日本畜産学会誌、85(1): 61-69
    2)長田(2010)ぶんせき(社)日本分析化学会、2 月号: 79-84