耕作放棄地等の放牧活用を支援する省力的家畜飲水供給技術マニュアル

要約

耕作放棄地放牧等において、直流ポンプなどを用いた飲水供給技術を導入することにより、水源は確保できるが家畜の飲水供給を人力などに頼らざるを得ない放牧現場での自動・省力的な飲水供給が可能となる。

  • キーワード:耕作放棄地、放牧、飲水、直流ポンプ、太陽光発電
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

耕作放棄地等の放牧利用において、飲水施設の整備は重要な項目の一つである。しかし、放牧現場では、水源から高低差によって導水したり、雨水・湧水などを集水して家畜に給与できない場合も多い。水源が放牧地よりも低位部にある場合、農家などは人力や動力による取水・給水を余儀なくされ、結果的に自宅などから頻繁に飲水を運搬して供給するなど多大な労力と時間を要している。
そこで、家畜飲水供給を自動化し農家の家畜飼養管理の省力化を図ることを目的に、直流電気で駆動するポンプシステムを導入した新たな家畜飲水供給技術を開発し、その有効性を現地実証するとともに、普及のための導入マニュアルを作成する。

成果の内容・特徴

  • 本技術は飲水供給が人力やガソリンエンジン動力などでしか実施できない耕作放棄地などの放牧現場において、直流電源で駆動するポンプシステムを導入し、自動的に家畜の飲水を供給するものであり、太陽光発電を利用した電気牧柵機器との併用が可能である。システムは、直流ポンプ、発電・蓄電制御のための充放電コントローラ、飲水槽などの水位制御のためのフロートスイッチ、ポンプのON-OFF制御のためのポンプコントローラで構成されている(図1)。
  • 本技術の導入により、飲水が自動的に安定して供給される。このため、農家が日常的に行っている飲水供給に係る一連の作業が不要になるとともに、水切れの不安もなくなり、家畜飼養管理の省力・軽労化が図られる(表1)。
  • ポンプシステムを一台整備すれば、貯留水槽から複数の飲水槽へ分配する方式を採用することによって、1牧区のみでなく、複数牧区への飲水供給が可能である(図2)。
  • 作成された「省力的家畜飲水供給システム導入マニュアル」には、システムの概要、設置方法、導入事例とともに、利用している電気牧柵等の消費電流やポンプの想定稼働時間などを設定することにより、必要なソーラーパネルの規模やバッテリー容量が算定できる設計計算シートなどが盛り込まれている(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:耕作放棄地などで家畜の放牧を実施中あるいは予定している農家・法人等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:普及予定地域は全国の耕作放棄地(39.6万ha)のうち、放牧利用が予定され、人・動力での飲水供給を余儀なくされている地域の圃場である。本システムは現在、栃木県内の3市町3放牧場に導入されている。
  • その他:本システムの配管などを除く導入コスト(2013年8月時点の価格)は、約6万円である。飲水を河川や用水路などから取水する場合は、水利権に留意する必要がある。導入マニュアルは、畜産草地研究所ホームページ内の草地管理研究領域紹介サイトに掲載予定。また、耕作放棄地等の放牧利用に関する全般的技術は、「小規模移動放牧技術汎用化マニュアル(Q&A)「身近な草資源を放牧地としてもっと活用しよう!」」(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/nilgs_report_10.pdf)等を参照。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能の強化技術および保全管理技術の開発
  • 中課題整理番号:420b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2013年度
  • 研究担当者:中尾誠司、手島茂樹、進藤和政、山田大吾
  • 発表論文等:中尾(2010)農業農村工学会誌、78(8):677-680