オーチャードグラスサイレージを分離源とする新種乳酸菌Lactobacillus iwatensis

要約

岩手県の自給飼料利用型TMRセンターで調製されたオーチャードグラスサイレージより、低中温領域(4~37°C)で生育可能であり、D及びL型乳酸を両産生するLactobacillus属新種のホモ発酵型乳酸菌を発見し、Lactobacillus iwatensis と命名する。

  • キーワード:乳酸菌、Lactobacillus、国産自給飼料、オーチャードグラス、発酵飼料調製
  • 担当:自給飼料生産・利用・国産発酵TMR
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜飼養技術研究領域・家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

輸入飼料への依存度の高い我が国の畜産経営体質を改善するために、高栄養・高品質・高収量の自給飼料を最大限利用することが求められている。特に、各都道府県において、各地域の特色を活かしたコントラクターやTMRセンターが中心となり、自給飼料を最大限活用した発酵TMR等の低コスト生産及び利用・流通技術の高度化が重要な課題となっている。
本研究では、自給飼料利用型TMRの発酵品質改善に向けて、優れた添加剤の開発・応用に繋がる乳酸菌の分離・同定を行うことを目的とする。

成果の内容・特徴

  • IWT246T(=JCM 18838T=DSM 26942T)株及びIWT248(=JCM 18839)株の分離源は、岩手県八幡平市のTMRセンターのバンカーサイロにおいて冬期貯蔵中のオーチャードグラスサイレージである。本サイレージは自給飼料利用型TMRの原料として活用されている。
  • 本菌株は、グラム陽性、カタラーゼ陰性、桿菌様の形態(1μm×1.2-2.5 μm)である(図1)。通性嫌気性であり、D及びL型乳酸を両産生するホモ発酵型乳酸菌である。芽胞形成は認められず、運動性はない。増殖可能温度は4~37°Cである。既知のLactobacillus属乳酸菌において、4°C等の低温領域で増殖可能な菌種は数少ない。
  • 利用可能な糖源は、D-グルコース、D-フルクトース、D-マンノース、D-マンニトール、D-ソルビトール及びN-アセチルグルコサミンであり、既存のLactobacillus属菌種に上述の資化性パターンを示すものはない。
  • 基準株のゲノムGC含量は41.3%モルであり、細胞壁ペプチドグリカンにmeso-ジアミノピメリン酸は含まれない。
  • 16S rRNA遺伝子配列による系統樹解析により、最近縁種はLactobacillus backii であり、配列類似性は99.7%である(図2)。DNA-DNA分子交雑法、リボタイピング法(図3)及び上述の生理学的・化学組成的な特徴より、Lactobacillus属新種として新規分離株をLactobacillus iwatensis と命名する。

成果の活用面・留意点

  • 日本の細胞バンクJCM及びドイツの細胞バンクDSMZに寄託されており、利用者が直接的に学術・産業利用できる。
  • 本成果により、本新菌種を微生物の系統分類・特性評価研究等の基礎及び応用研究に利用可能である。本成果は、実際の発酵飼料調製における本菌株の性能を担保するものではないが、本菌株による自給飼料利用型TMRの発酵品質改善効果を現在検証中である。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:飼料用米等国産飼料を活用した発酵TMR の安定調製給与技術と広域流通システムの確立
  • 中課題整理番号:120c6
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2013年度
  • 研究担当者:遠野雅徳、北原真樹(理研BRC-JCM)、入澤友啓(理研BRC-JCM)、増田隆晴(岩手県)、上垣隆一、大熊盛也(理研BRC-JCM)、田島清
  • 発表論文等:Tohno M. et al. (2013) Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 63:3854-3860