カイコ虫体発現系由来ウシインターフェロンτは妊娠認識に関わる生物活性をもつ

要約

バキュロウイルス/カイコ虫体発現系由来ウシインターフェロンτは、オキシトシンに応答して増加する子宮内膜上皮細胞のPGF2α産生を抑制する。ウシ卵子の体外受精後5日目にウシインターフェロンτを加えると、胚盤胞への発生率が増加する。

  • キーワード:ウシインターフェロンτ、バキュロウイルス/カイコ虫体発現系、PGF2α、胚
  • 担当:家畜生産・繁殖性向上
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜育種繁殖研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

反芻家畜では妊娠初期の胚から分泌されるインターフェロンτが、子宮内膜で産生されるプロスタグランジン(PG)F2αを抑制することで黄体機能を維持し、妊娠認識に重要な役割を果たす。また、インターフェロンτはウシ胚の発生率を高めることが知られている。これを利用するには、組換えタンパク質として調整することが必要である。バキュロウイルスを用いたカイコ虫体発現系は、大量発現が可能で翻訳後修飾が哺乳類に近いという利点を有することから、バキュロウイルス/カイコ虫体発現系由来のウシインターフェロンτの妊娠認識に関わる生物活性について検討する。

成果の内容・特徴

  • バキュロウイルス/カイコ虫体発現系を用いてウシインターフェロンτを発現できる(2.62×109 IU/mg protein)。
  • 食肉処理場より採材したウシ子宮から子宮内膜上皮細胞を単離し、無血清培養を行う。培養細胞に100nM オキシトシン(OT) を加えるとPGF2α産生は基底分泌より増加するが、ウシインターフェロンτを添加すると、OTに応答して増加するPGF2α産生を有意に抑制する(図1)。
  • 食肉処理場より採材したウシ卵巣の未成熟卵子を用いて体外成熟・受精、ならびに発生培養を行う。体外受精日後5日目)よりウシインターフェロンτを添加し、無血清培養を行う。ウシインターフェロンτを10ng/mL(2.62×104IU/ng protein)添加すると、無添加に比べて胚盤胞への発生率が有意に高まる(表1)。
  • バキュロウイルス/カイコ虫体発現系由来のウシインターフェロンτは、妊娠認識に関わる生物活性を有する。

成果の活用面・留意点

  • ウシにインターフェロンτを投与することで、黄体機能の維持が期待できる。
  • 体外培養における体外操作胚などの胚盤胞への発生率向上が期待できる。
  • バキュロウイルス/カイコ虫体発現系由来のウシインターフェロンτに感染性組換えウイルス粒子が含まれている場合は、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律第13条第1項に基づき、第二種使用等拡散防止措置が必要である。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:受精・妊娠機構の解明と調節による雌牛の繁殖性向上技術の開発
  • 中課題整理番号:130b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2007~2011年度
  • 研究担当者:高橋ひとみ、綱崎誠(愛媛県農試)、濱野貴史(滋賀県農セ)、高橋昌志、奥田潔(岡山大農)、犬丸茂樹、岡野彰、下司雅也、平子誠
  • 発表論文等:Takahashi H.et al. (2014)J. Vet. Med. 76(3):447-451