低平クリーク地帯のフローダイヤグラムによる水質診断

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要約

人為的水管理に水移動を支配される低平クリーク地帯を対象に、集落を空間分割の単位とするフローダイヤグラムを作成し、各種の水質改善策の効果を水質の場所分布として表現する方法を提案し、診断事例を示した。

  • 担当:農業工学研究所・水工部・水利システム研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7542
  • 部会名:農業工学
  • 専門:環境保全
  • 対象:農業工学
  • 分類:普及・行政

背景

筑後川下流域では、クリーク内の水質汚濁が進行し、農業用水の保全および親水性の観点から問題になっている。水質改善には図1に示すような対策が考えられる。水質改善を効率的に進めるためには各種の事業等の実施による効果を定量的に診断し、それらを適切に組み合わせる必要がある。本研究では水質の場所分布を評価できるフローダイヤグラムを作成し、診断事例を示すことを目的とした。

成果の内容・特徴

有明海、矢部川、沖の端川、塩塚川に囲まれた面積3,140haの低平水田地帯を対象に各種の水質改善策の効果をフローダイヤグラムを作成して定量的に診断した。
(フローダイヤグラム作成法)

  • フレーム値収集の容易さを考慮し、集落界をブロック分割の単位とした(図3)。
  • 地区外からの取水量と地区外への排水量を現地調査結果から図2に示すように求め、境界条件とした。取水水門は3ヶ所、排水水門は37ヶ所存在した。
  • 排出原単位、水収支にかかわる諸定数等は、水田における差引き負荷量を除き、文献値をもとに仮定した(表1)。
  • 低平クリーク地帯では、水門操作など人為的水管理によって水移動が支配されている。このため、地区内水路の分岐・合流による流量配分は、現地調査と聞き取り結果に基づき初期値を仮定した。地区内の定常流況は、ブロック毎に存在する水域に与えた水位(貯留量)に一致するまで繰返し計算を行い発生させた。
  • 再現した地区内流況にブロック毎のフレーム値に基づく負荷量を与え、物質収支により水田潅漑による水の反復利用を考慮した水質分布を求めた。

(対象地区の水質診断結果)

  • 水質環境に最も大きな影響を及ぼしているのは矢部川からの取水水質であった。
  • 潅漑期の平均では、水田の差引き負荷量をゼロとした場合が最もよく現況を再現した。図3は、水収支とフローダイヤグラムにより解析したT-N濃度の場所分布である。
  • 全域を対象に生活系および畜産系の高度処理を行うとT-N濃度は平均で0.14mg/l低下し、さらに1.5mg/lの水を2.0m3/s導水すると0.45mg/l低下すると予測された(表1)。

成果の活用面・留意点

本研究で用いた手順を踏むと、水路網を有する地区の水質環境と集落排水事業や清澄水の導水等の各種の水質改善策の効果を実用上十分な精度で診断できる。精度向上のためには、(1)用・排水系統と水管理の実態をより反映した水域分割、(2)降雨流出特性と水管理のモデル化、(3)水田における差引き負荷量の定量化、(4)クリーク内における除去速度係数および溶出速度の算定等が必要である。

具体的データ

図1 各種水質改善方法の位置づけのイメージ
図2
表1
図3

その他

  • 研究課題名:広域水質解析システムの検討
  • 予算区分:経常、受託研究(日本農業集落排水協会)
  • 研究期間:平成6年度(平成4~6年)
  • 発表論文等:筑後川下流域クリーク地帯の水質診断、農業土木学会誌62(11)、37~44、1994