表面遮水シートの力学的特性

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要約

農業用貯水池の表面遮水工法用に使用される各種土木遮水シートについて、その素材の持つ基本物性、シート及び接着・接合部強度の温度依存性、各種下地条件下での遮水・耐水圧性、実材令の経年物性変化、といった力学的特性を明らかにした。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・土木材料研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7573
  • 部会名:農業工学
  • 専門:基幹施設
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:研究・行政

背景

遮水に適した不透水性土質材料の経済的な入手が困難な、貯水池の新設や老朽ため池の改修の場合には、遮水シートを用いた表面遮水工法が採用されることが多い。この土木用遮水シートには新素材の開発もあって各種あることから、その利用に当たっては、シートの持つ力学的特性と現場条件を踏まえた安全性・施工性・経済性の検討が不可欠である。

成果の内容・特徴

研究対象として、農業用貯水池において使用例が多い合成ゴム(EPDM)系、塩ビ(PVC)系、熱可塑性(TPE)系遮水シート及びアスファルトパネルと、表面遮水材として新素材であるエチレン(HDPE)系遮水シート、ペントナイト系遮水マット(GCL)を取り上げた。
1基本物性の比較:図-1に示すように、標準状態においては、HDPE系はEPDM系に比べ、引張強さ、切断時伸び共に2倍程度大きい。しかし、その引張応力に対する伸びの挙動は異なる。EPDM系は伸びが引張応力に比例的であるのに対して、HPDE系は伸びの初期で降伏点を生じ、その後は引張強さの60%前後の応力でネッキングを起こす。また、TPE系は、EPDM系とHDPE系の挙動を合成したような伸び挙動を示す。さらに、EPDM系は製作メーカや製作年度によって基本物性値が異なることから明らかなように、現状条件に応じた配合設計が、ある程度可能である。
2シート物性の温度依存性:図-2に、EPDM系とHDPE系の温度特性を示す。EPDM系、HDPE系ともに低温になるほど引張強さは増すが、切断時伸びは低下する。特にHDPE系の切断時伸びの低下は激しい。また、EPDM系も低温になるにつれ、引張応力と伸びの比例的関係が崩れる。なお、図中の「寒冷地仕様」は、温度低下による物性変化を抑制するよう配合設計を試みた試作シートの試験結果である。
3遮水・耐水圧性:GCLについては、簡易遮水工法として、その設計・施工法を提案した。現在、各農政局現場において、FP貯水槽の底盤止水工法として普及し始めている。図-3は、試験結果の一例で、GCLは乾燥亀裂発生後も自閉性を示す。また、EPDM系、TPE系の各種下地条件下での耐水圧性は、単純昇圧条件に比べ、繰り返し載荷条件では著しく低下する。不織布による緩衝材効果は、下地基盤の凹部で破裂するEPDM系では大きい。
4実材令の経年物性変化状況:IIR系合成ゴムシートである農工研実験池の試験結果では、経年するにつれ、M300は単調に増大、引張強さと引裂強さは一旦増大した後減少、切断時伸びは単調に減少する。この経年現象がEPDM系合成ゴムシートにも当てはまるとすると、サンプリングをした3貯水池とも伸びに関する性能が低下してきているものの、強さに関する性能が低下する段階までには至っていない(表-1)。また、C調整池試験池の東側斜面と西側斜面で、法肩から池底まで連続してサンプリングを行った結果、池底から法肩に向けて徐々に物性変化か大きくなっていること、何れの位置を対比しても西側の方がより物性変化が大きいこと、から熱や紫外線により物性変化が促進されることが確認できた。

成果の活用面・留意点

本成果は、遮水シートを用いた表面遮水工法を設計するための基礎資料、施工・維持管理する際の参考資料となる。但し、本成果は、各素材を代表する製品を対象とした試験結果であることから、配合等の製造条件が異なれば、本成果の力学的特性と異なる特性を示すこともある点に留意されたい。

具体的データ

図1 各種温水シートの引張強度特性
図2 EPDM系、HDPE系シートの温度特性
図3 GCLの乾燥亀裂発生後の自閉性
表1 経年特性変化状況

その他

  • 研究課題名:表面遮水シートの力学的特性の解明と利用技術の開発
  • 予算区分:経常・依頼・受託
  • 研究期間:平成7年度(平成3-7年)
  • 発表論文等:大型圧力容器によるベントナイト系遮水マットの遮水性能に関する基礎的実験,農業土木学会論文集(167), pp.73-80 (1993)
                      農業用貯水池における土木用遮水材による表面遮水工法, 防水ジャーナル,第26巻12号, pp.43-51 (1995)