環境同位体を指標とした水文解析法の小流域地下水流動への適用

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要約

環境同位体のラドンとトリチウムを水文解析指標として併用することで、山地地下水の起源や、地下水の流下に伴って最近の降水が浸透・混合している状態、地下水の河川への浸出状態などを解明し、この方法が小流域地下水流動の実態解析に有効であることを示した。

  • 担当:農業工学研究所・地域資源工学部・地下水資源研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7540
  • 部会名:農業工学
  • 専門:資源利用・環境保全
  • 対象:現象解析技術
  • 分類:研究

背景

小流域において限られた水資源の適切な利用・管理を図るためには、まず流域内での地表水や地下水の流動実態を正確に把握する必要がある。しかし、地下水については地下水位の分布を測定して賦存量の変動を把握するのがようやくで、地下水の起源や地表水との交流の実態などを把握することは困難であった。そこで、本研究では、これまでに開発してきた水に含まれるラドンやトリチウムを指標とした調査・解析法を併用し、小流域における地下水流動の実態解析に対する有効性を現地検証する。

成果の内容・特徴

ラドンは短寿命の地層起源核種で、地表水と地下水で濃度が大きく異なり、濃度に過去約3週間の流動環境が反映する。トリチウムは半減期約12年の降水起源核種で、地下水の濃度から降水時期が同定できる。方法の有効性を検証するため、試験地には水文データの収集が容易な流域を選び、地下水のラドン濃度やトリチウム濃度等の調査は、流域全体が把握できるように選定した10点の井戸を対象に2~3回実施した(図1)。また、台地と低地を代表する2点については、1年間にわたって毎週ラドン濃度等を測定した。さらに、地下水浸出が想定される河川でもラドン濃度調査を実施した。得られた結果は次の通りである。
1)地下水のトリチウム濃度は流域の上流で5Bq/1を超える高い濃度であった。近年の降水の濃度は約2Bq/1であることから、地下水の起源は高濃度であった1960年代の降水と同定された(図2)。
2)下流側ほどラドン濃度とトリチウム濃度が低下しており、それは現降水の浸透・混合現象として解析できた(図3)。
3)低地部では、かんがい期にラドン濃度が低下し、非かんがい期にも大雨によって濃度が低下することから、地表水が短時間で地下水面に到達していることが立証された。濃度から試算した到達時間は約1日となった。台地部では、ラドン濃度が高く変化が微小であることから、地表水の地下水面への到達にはほぼ放射平衡が成立する3週間程度を要していることが推定された(図4)。
4)河川水のラドン濃度の高い地点が存在し、地下水の浸出区間が明かになった(図5)。地下水と河川水のラドン濃度から試算した地下水の浸出量は、河川水量の約10%となった。
5)解明された現象は、降水量、河川水量などの水文観測結果と収支が一致し、妥当性が確認された。
このように、小流域では、ラドンやトリチウムなど環境同位体を指標とした調査法を併用することによって、地下水の起源や地表水との交流の実態など従来の調査法では把握できなかった地下水流動実態が解明できる。

成果の活用面・留意点

この手法の適用に当たっては、同位体の測定に液体シンチレーションアナライザが必要となる。

具体的データ

図1 調査地点
図2 降水時期の同定
図3 地下水の流下に伴う濃度変化
図4 定期観測の結果
図5 河川水のラドン濃度

その他

  • 研究課題名:同位体による地下水流動メカニズムの解明、同位体による地下水監視技術の開発
  • 予算区分:総合的開発[水保全管理]、経常
  • 研究期間:S63-H3、H2-H6
  • 発表論文等:Investigation on shallow groundwater in a small basin using natural radioisotopes as indicators, RADIOISOTORES,45(2),pp.71-81,1996 研究成果シリーズ「水保全管理」(印刷中)