膜分離活性汚泥法における汚泥の粘性制御手法

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

膜分離技術を活性汚泥と処理水の分離工程に用いた膜分離活怯汚泥法を実用化する上で、最大の課題とされる膜の汚染を低減するために、汚染の粘性を制御する運転手法を開発した。結果として、1年間膜洗浄なしの継続運転が達成された。

  • 担当:農業工学研究所・農村整備部・集落排水システム研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7536
  • 部会名:農業工学
  • 専門:農村整備
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:研究

背景

近年、高度な処理水質への要求に対応するため、農業集落排水処理施設においても、活性汚泥法(浮遊生物法)の採用事例が多くなってきている。活性汚泥法に、膜分離プロセスを組み込んだ膜分離活性汚泥法は、従来法にない安定した固液分離性能が得られるという特徴をもっており、活性汚泥法の処理性能を高度化することが期待されている。一方、同法を農業集落排水処理施設のような小規模施設に適用する上で、最大の課題となるのが、膜の汚染を低減し、膜洗浄なしで長期間の継続運転を行うことである。

成果の内容・特徴

  • 膜分離活性汚泥法と従来の活性汚泥法の主な相違点は、従来法では沈殿槽において沈降分離していた活性汚泥を、本法では膜で直接分離していることである(図-1) (表1)。このため、従来法においては生物処理槽から系外に流出していた、分子量が大きく、難分解性の生物代謝生成物が、本法においては生物処理槽に蓄積し、膜ろ過運転に悪影響を与えることが懸念されている。そこで本研究では,余剰汚泥の引き抜きを週1回、定期的に行うことによって、生物代謝生成物の蓄積の抑制および汚泥の粘性の制御をねらった。
  • 結果として、生物処理槽内上澄水の溶解性有機物濃度および汚泥の粘度(粘性係数)は、運転期間中安定的に推移した(図-2)。これら2つのバラメータの上昇を抑制したことによって、膜ろ過圧は全体的に安定して推移し、1年間膜洗浄を行わずに膜ろ過運転が継続できた(図-3)。また、流入水量変動が本法の弱点といわれているため、模擬的な水量変動試験を行った。結果として、高フラックス(通常の2倍)条件下(実験開始288~309日後)ではろ過圧が一時的に増加したものの、通常のフラックスに戻すとろ過圧も回復した。このことにより、本装置は、膜が不可逆的な目詰まりを起こさない程度の一時的な流入水量変動には対応できると考えられた。
  • 本装置は、膜ろ過の駆動カとして膜上部に存在する活性汚泥混合液の圧力水頭を利用したことから、膜ろ過の駆動力を生み出すための加圧ポンプ等が不要であり、単位処理水量当たりにかかる電力費を従来法とほほ同じレベル(2.3kWh/m3)まで削減することができた。また処理水質については、本装置では、活性汚泥混合液を孔径0.4μmの精密ろ過膜で分離することから、汚泥などのSSおよぴ大腸菌群が、ほぼ100%除去された。

成果の活用面・留意点

本法は、処理水の微生物学的安全性が高いため、特に水道水源域や離島など、処理水の再利用を視野に入れなければならないケースに適用が期待される。-方、本法の処理性能は、膜そのものの形状・材質に起因するところが大きいため、本法を実際の施設に適用する際には、使用する膜の性能を、事前にチェックすることが肝要である。

具体的データ

表1 実験条件(平均値)
図1 実験装置
図2 生物処理槽内上澄水有機物濃度と汚泥の粘度の推移
図3 膜ろ過圧とフラックスの推移

その他

  • 研究課題名:膜分離活性汚泥法による窒素・リン除去技術の開発
  • 予算区分:経常・受託(日本農業集落排水協会)
  • 研究期間:平成8年度(平成6年~8年)
  • 研究担当者:上田達己, 端 憲二, 山岡 賢
  • 発表論文等:1) T. Ueda, K. Hata and Y. Kikuoka (1996),Treatment of Domestic Sewage from Rural Settlements by a Membrane Bioreactor,Water Science and Technology,34(9),pp.189~196
    2) 上田達己, 端 憲二, 菊岡保人(1996), 膜分離活性汚泥法による高度処理, 農業土木学会誌, 64巻6号, pp.549~554