流砂モデルを用いた農地の侵食量および土砂流出量の予測手法

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要約

従来、農地の土壌侵食量の予測には経験式が用いられてきた。しかし、これらには精度や適用範囲および応用性の面で制約があった。そこで、これらの欠点を克服するために、リル(雨裂)を中心とする流砂モデルを構築し、侵食量及び土砂流出量の予測手法を開発した。

  • 担当:農業工学研究所・地域資源工学部・土地資源研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7670
  • 部会名:農業工学
  • 専門:資源利用・環境保全
  • 対象:農業工学
  • 分類:研究

背景

農村流域における土地資源を維持したり、流域環境を保全するためには、農地の侵食ポテンシャルを解析したり、農地からの土砂流出量を適確に予測することが重要である。従来は米国農務省のUSLEのような経験式が土壌損失量の予測に用いられてきた。しかし、これらは、経験式の故に、いろいろな点で適用に制約がある。また農地小流域からの土砂流出量の予測に、これらの式と流達率が用いられてきたが、予測の精度の点でも問題がある。
ここでは、土砂水理学を援用してリルにおける流砂モデルを構築し、リル侵食が卓越した農地における侵食量および土砂流出量の予測手法を開発した。

成果の内容・特徴

  • 予測に用いる流砂モデルは、リル内の流砂の連続式を基礎とし、リル及びインタリル侵食(リルとリルの間の領域の表面侵食)モデルや表面流出モデルなどをサブモデルとして構成されている(図1)。従って、USLEのような経験式に比べて以下の 3、4 及び 5 のような優れた点がある。当モデルの妥当性を図2に示す。
  • 土性の相違は、サブモデルのリル及びインタリル侵食モデル(流砂モデルの基礎式の右辺の第1項及び第2項に関する評価モデル)の各々の受食パラメータに反映される。
  • 表面流出モデルとして雨水(Kinematic wave)モデルを採用することにより、農地からの土砂流出量の動態的な予測が可能である。
  • 構築した流砂モデルは、経験式と異なり、長い斜面長の農地にも適用でき、また任意の流下地点での侵食量が予測できる。更に、堆砂モデルを付け加えて堆砂域や堆積量が予測できる。
  • この手法は侵食や土砂流出に関するいろいろな解析に使用できる。解析の事例を図3に示す。この図から、リル下流部で勾配に急な変化があると、当域は更に侵食され易くなり、流砂量はその影響を大きく受け易いことが分かる。
  • この流砂モデルは、ウネ間の侵食および土砂流出にも適用できる。この場合、ウネ間をリルに見立て、ウネ部をインタリル領域に見立てればよい。

成果の活用面・留意点

予測手法の適用に当たっては、リルあるいはウネの配列に関する情報が予め必要である。リル侵食が卓越した農地が予測手法の適用の対象であり、リル及びその周辺は裸地状態を想定する。しかし、この流砂モデルに植生などによる被覆効果を反映させるサブモデルあるいはパラメータを組み込むこともできる。

具体的データ

式1 流砂モデルの基礎式
図1 リルの概念図
図2 リル侵食量の計算値と実測値
図3 リルに沿った各地点での流砂量

その他

  • 研究課題名:農地の侵食ポテンシャル評価に関する研究
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成8年度(平成7年~11年)
  • 研究担当者:高木 東(現・水文水資源研究室)・塩野隆弘
  • 発表論文等:高木 東, 中尾誠司, 友正達美:流砂モデルによるリル浸食量および流砂量の解析, 農土論集, 181, pp.11~21(1996)