ロックフィルダムのコアに発生するアーチ作用の定量的評価と堤体の安全性

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要約

中心コア型ロックフィルダムのコアゾーンに発生するアーチ作用(コアの重量が両側のフィルターに分散する作用)、および堤体の水理破砕(貯水圧によりコアが割裂する現象)に対する安全性を定量的に評価する解析法を開発した。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・構造研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7570
  • 部会名:農業工学
  • 専門:水理・構造
  • 対象:現象解析技術
  • 分類:研究

背景

ロックフィルダム中央部の土質遮水ゾーンには、両側の硬いフィルターに挟まれていることによる内部応力の未発達状態(アーチ作用)が発生することが知られている。この現象は、その度合いが大きい場合には貯水圧による遮水ゾーンの割裂及び貫孔(水理破砕)に発達する危険性がある。したがって、コア内に発生するアーチ作用を定量的に評価することは重要である。荒砥沢ダムにおいて、埋設計器の実測によりアーチ作用の定量的把握に成功した。また、アーチ作用の発生程度の予測および水理破砕に対する安全性の評価を可能とする解析手法の開発を行った。

成果の内容・特徴

  • 堤体中央下部に、上流側フィルターからコア、下流側フィルターにわたって一列に配置した土圧計の測定により、堤体盛り立て標高の上昇に従ってアーチ作用がて顕著になっていくことが確認された。つまり、鉛直方向に作用する土圧が、コア部であまり発達せずフィルター部に集中していることが図1からわかる。 この現象を定量的に評価するために、築堤過程を考慮した応力変形解析を実施した。各材料の三軸圧縮試験をデータとした非線形弾塑性解析により、実測値と良く合致する結果を得た。この解析手法が、アーチ作用の定量的予測に有効であることがわかる。
  • 築堤完了後にコア中に発生する鉛直土圧と、貯水により作用する水圧との比較を図2に示す。土圧が水圧より小さくなる場合には水理破砕の危険性が生じるが、その危険性に対してどの程度の余裕があるのかがこの検討で確認できる。
  • 堤体全体の応力状態から堤体を細分化したメッシュ毎の安全率を、図3に示す。この安全率は、堤体材料の持つ強度を基準とした局所安全率である。アーチ作用により応力が集中するフィルター下部およびその周囲の安全率が比較的小さいことがわかる。
    この解析的検討により、堤体断面、および材料の設計数値が決定された段階(築造前)で、アーチ作用の発達の程度および水理破砕の危険性が予測できるようになる。

成果の活用面・留意点

行政部局で建設するフィルダムのゾーニングの妥当性の検討、あるいは挙動観測体制の配置計画等に活用できる。

具体的データ

図1 土圧計で推測された鉛直土圧分布の発達状況と築堤解析結果
図2 アーチ作用により減少したコア内鉛直土圧と貯水圧の関係
図3 築堤完了時の部分メッシュ毎の安全率

その他

  • 研究課題名:フィルダムの堤体および基礎の応力変形挙動
  • 予算区分:経常・依頼
  • 研究期間:平成8年度(平成5年~10年)
  • 研究担当者:田頭秀和, 安中正実, 増川 晋
  • 発表論文等:1)依頼研究「荒砥沢ダムの安全性に関する研究」平成5~7年度報告書
    2)安中正実:挙動観測による施設安全監視の重要性, 農業土木学会誌, 64(12), pp.1~5(1996)