ポンプ送水系畑地かんがい地区における段階的整備方式導入のための経済性評価手法

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要約

ポンプ送水による畑地かんがい計画を立てる場合,営農や水利用のより効果的な定着のために営農に要する経費の軽減が不可欠である。そこで,施設整備費と維持管理費とのトータルコスト面で有利となる段階的整備方式の導入を検討するための経済性評価手法を開発した。

  • 担当:農業工学研究所・農地整備部・畑地かんがい研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7552
  • 部会名:農業工学
  • 専門:農地整備
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:行政

背景

畑地かんがい整備に関する事業は,全体かんがい施設を事業実施期間内に一度に整備する方式がとられているが,近年,地域的な作付け体系等の変化により水利用計画に対して,現実の営農の立ち上りが遅れることが多く,計画との間に水利用の乖離が報告されている。そこで,ポンプ送水系地区を対象に,施設整備費と維持管理費とのトータルコストに着目し,地域条件に応じた段階的整備方式導入の経済的有利性を評価する手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 段階的整備手法とは,ポンプ送水系地区のパイプライン,ポンプ設備及びファームポンド(以下,「F.P.等」という。)の全体施設のうち,当面の営農に必要な部分を整備し(一次整備),残りは営農の進展に合わせて後年度に整備する(二次整備)ことにより,水利用実態に応じて段階的に全体施設計画に近づける整備方式をいう。これにより,全体施設を当初に一体整備するより経済的に有利にすることが可能となる。
  • 段階的整備方式の導入の適否判定は,F.P.等の整備費と施設利用に伴う電力経費のトータルコストについて図-1の概念のもと,総合耐用年数期間内における総コスト評価を行い,段階的整備方式を導入した方が全体施設整備計画よりも有利となるか否かを判断する。
  • 導入例として上図の設計条件を,3:)最大日消費水量5mm/day,6計画かんがい時間20hr/day,8段階的に整備する施設規模を全体施設規模の50%(図-3参照),9段階的運用年を全体施設の総合耐用年数及び水利用実態把握の観点から10年,と設定した。また,施設の整備費及び電力経費の年経費を管口径の関数として表し,その合計値を管口径で偏微分することにより最経済的な管口径d(m)と設計流量Q(m3/s)の関係式(図-1の式(1))を導いた。これにより,一体整備と段階的整備の場合の,整備費及び電力経費のトータルコストを算出し比較した。10物価は平成8年度に統一して評価した。
    (1) 結果のうち,管路延長1kmの地区の段階的整備方式導入が有利となる範囲の例を実揚程と管口径にて表現したものが図-2である。なお,管口径dは,式(1)より受益面積によって決まる。
    (2) 図-2の管口径0.6m・実揚程150mの条件(受益面積では約600haにあたる)で,この事例では,農家負担率を5%とした時の総合耐用年数間におけるトータルコストの農家負担総額は,一体整備に比較し2千万円の減額となり,ポンプ送水系に係わる農家負担額の6%の低減となる。減額傾向は,実揚程が高いほど大きくなる。

成果の活用面・留意点

1.活用に当たっては,一次整備の範囲,二次整備の開始時期,段階的運用年で地区の条件に適合可能な設定による比較検討が重要である。

具体的データ

図2 管路延長1kmにおける段階的整備方式が有利となる設計範囲
図3 段階的に整備する施設規模

その他

  • 研究課題名:畑地かんがい用ファームポンドの調整容量の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7~9年度
  • 研究担当者:吉田弘明,小泉 健
  • 発表論文等:1)「畑地かんがい用水補給における用水量諸元実態調査」(吉田弘明・小泉 健・宮本輝仁,畑地農業464号/1997)
                      2)「ポンプ送水による畑地かんがい地区の段階的整備方式の検討」(吉田弘明・小泉 健,農業工学研究所技報第196号/1998)