流水音の快適性評価手法

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要約

流水音の心理イメージの構造と音響指標の関係を明らかにした。そして、流水音が人に与える快適性を、サウンドレベルと周波数スペクトル特性という音響物理特性から予測・評価する線型判別関数を示した。

  • 担当:農業工学研究所・農村整備部・集落整備計画研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7669
  • 部会名:農業工学・総合農業
  • 専門:農村整備・農村計画
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:研究

背景

近年、非農業従事者の農村地域への居住傾向が強まっており、集落内の環境整備に対する要望は多様化している。例えば、水路やため池のような農業用水利施設には、単に経済性や効率性を主眼に置いた施設ではなく、農村生活の快適性や親和性を高める親水施設として整備を行うことが従来にも増して期待されている。本研究は、流水音を水路の重要な水辺環境構成要素(聴覚要素)として捉え、水路の魅力度を高めるような計画・設計基礎諸元を明らかにすることを目的とした。

成果の内容・特徴

  • 流水音の心理イメージ構造:
    流水音の心理イメージ構造を明らかにするため、被験者84名に10種類の流水音を聞かせ、水をイメージする24種類の形容詞によって評価させた。評価結果を全被験者について平均し、24形容詞の評点を変量とする主成分分析を行ったところ、図1に示す通り、流水音のイメージは、「せせらぎ度」と「リズム感」という二つの総合指標(評価軸)によって評価されていることを明らかにした。また、二つの総合指標と音の物理的な特性との関係を解析したところ、せせらぎ度には音の大きさ(サウンドレべル:dB(A))が影響を与えており、凡そ40~60dB(A)の範囲の時に快適感が得られること等を明らかにした。ただし、図2が示す通り、水路形態等が異なると、音質(周波数特性)のタイプも異なることから、人が快適と感じる音の大きさの範囲は変化するなどという官能評価特性も把握した。一方、リズム感の有無には周波数特性が影響を与えていることを突き止め、特に、図3に示すようなスペクトル形状の違いが人の流水音に対する好感度に影響を与えていること等を明らかにした。
  • 快適性の判別関数:
    以上の成果をもとに、サウンドレべル(X1)と周波数特性(X2)を説明変数とし、流水音の快適性を目的変数(Z)とする線型判別関数を求めた。本関数のX1には、観測地点における流水音のサウンドレベルを代入する。また、スペクトルデータから個々の流水音が好まれる音(タイプ1)か否か(タイプ2)を評価式から予測し、タイプ1に該当する流水音にはX2=1.0を、タイプ2の場合にはX2=2.0を代入する。このようにして得られる値が判別得点(Z)であり、本関数の場合、判別得点が負値になるとその流水音は快適音といえる。図4は、8種類の流水音観測データについて、別途行った官能試験で評価された快適音(○印4種類)と不快音(×印4種類)の判定結果と、本関数による判別結果が合致していることを示しており、本関数の有効性を証明している。なお、図4の直線上のZ値は0(ゼロ)であり、この直線が流水音の快適領域と非快適領域の境界線となっている。

成果の活用面・留意点

流水音の快適性を考慮した水路の環境整備を実施する際の基礎資料になる。

具体的データ

図1 流水音の心理イメージ構造
図2 サウンドレベルと快適性の関係
図3 周波数スペクトル特性と選好性
図4 流水音に関する快適性の判別

その他

  • 研究課題名:農村環境の持つ視聴覚要素が居住者に与えるやすらぎ効果の解明
  • 予算区分:経常、依頼
  • 研究期間:平成10年度(平成6~10年度)
  • 研究担当者:小林宏康、岡本佳久、筒井義冨、山本徳司(現、技術会議事務局)
  • 発表論文等:山本徳司、筒井義冨:水利施設周辺の整備計画手法の開発、水保全管理、成果情報シリーズ、6、1994
                      山本徳司、筒井義冨:せせらぎ水路の視聴覚複合刺激に対する評価と音の物理特性、農工研成果情報、1994