多様な魚種が遡上できる近自然型魚道(リープフロッグ式魚道)

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

近自然工法の一環として施工例が増えている粗石付き斜路式魚道の改良型としてリープフロッグ式魚道を開発した。この魚道は、従来の粗石付き斜路式魚道よりも急勾配化が可能で、魚道の適正配置、低コスト化が図れる。又、カジカ類など遊泳力の弱い魚種も含め、多様な魚種の遡上が可能である。

  • 担当:農業工学研究所・水工部・水源施設水理研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7564
  • 部会名:農業工学
  • 専門:用排水
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:普及・行政

背景

近年、土木工法にも近自然的な工法が取り入れられるようになっており、この点から水路底に粗石や擬石を張った粗石付き斜路式魚道の採用例が増えている。
しかし、粗石付き斜路式魚道は、水路内の断面平均流速が遡上魚遊泳速以下となるように設計されるため、従来の階段式魚道と比べ著しく緩勾配となる。このため、長大な魚道となり魚道登り口を遡上魚の集魚場所に配置しにくくなったり、施工費が嵩む欠点があった。
一方、近年、生物多様性への配慮から農業用取水堰の魚道においても多魚種への対応が求められる傾向があり、アユ、サケなど水産魚種に特化した階段式魚道以外の新形式の魚道開発が試みられている。この点、粗石付き斜路式魚道は近自然型であるものの、水路タイプの魚道なので流速を低減させにくく多魚種に対応させにくい難点があった。

成果の内容・特徴

  • 魚道内の局所流速に着目した新形式の粗石付き斜路式魚道として「リープフロッグ式魚道」を提示した。この魚道は、中・大型魚は主として粗石上の高流速域を遡上させ、遡上力の弱い小型魚や底生魚は所々の粗石背面に生じる淀み域を休息域として利用させつつ遡上させるものである(図-1)。
    魚の休息場所が短区間に多数確保され、休息場所で休息しつつ遡上できるので、遡上力が特に弱いカジカ類・ハゼ類など底生魚の遡上にも適する。
  • 本形式は同一魚種を遡上対象漁とした場合、従来の粗石付き斜路式魚道よりも魚道勾配をきつくできる。また、魚道水深を深くできる。
    急勾配化により魚道登り口の適正配置や魚道の低コスト化が図れる。また急勾配化により増水時に魚道内のゴミや堆砂が除去されやすくなり維持管理の手間が省ける。
    一方、大水深化により中大型魚を遡上させやすくなるうえ、魚道が機能する水深の範囲を広げられる。すなわち、魚道が機能する期間を長くできる。
    なお、粗石背面を休息域として利用するので、魚道の途中に別途、休息プールを設ける必要がなく、この点でも低コストが図れる。
  • 上記1)、2)のコンセプトを満たすものとして図2の粗石形状、粗石配置を確定した。現場では本形状に類似した粗石もしくは擬石で施行すれば良い。
  • この魚道は、勾配1/40の場合、粗石上水深0~30cmの水位変動に対して機能する。この水位変動幅は多くの農業用取水堰の通常時におけるセキ上げ水位変動幅(数十cm)に相当する。
    魚道勾配をきつくするにつれて、多魚種用魚道として機能する最高水深が下がり、適用水位変動幅も狭まる。多魚種対応が十分可能なのは勾配1/30程度までで、1/20を超えるとリープフロッグ式でもほぼ小型魚専用魚道と化す。

成果の活用面・留意点

セキ上げ水位は堰の設計取水位を下限として変動するので、設計取水位を魚道上流端の粗石上10cmの水深に一致させれば効果的に多魚種対応が図れる。この粗石上水深を大きくすれば中大型魚主体の魚道となり、小さくすれば小型魚・底生魚主体の魚道となる。

具体的データ

図1 リープフロッグ式魚道の概念
図2 リープフロッグ式魚道の粗石形状、粗石配置及びその局所流速分布の一例

その他

  • 研究課題名:頭首工の多面的水理機能の解明
  • 予算区分:経常・依頼[本省]
  • 研究期間:平成10年度(平成5~12年)
  • 研究担当者:常住直人、加藤敬、中西憲雄
  • 発表論文等:1)常住:農業水利施設と環境保全の調和、H.9研究成果リーフレット、1997、
    2)常住・加藤・中西:多魚種に対応した低コスト魚道の開発、ARIC情報、48、p.34~40、1997、
    3)常住・加藤・中西:粗石付き斜路式魚道におけるリープフロッグ設計法の検討、H.9農土講要、p.174~175、1997、
    4)常住・加藤・中西:セキ下流河床低下後の魚道機能維持を目的とした魚道兼用護床ブロックの検討、H.9重要構造物実態調査報告書、1998