農業用水の需要の将来予測

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要約

日本の農業用水の需要を、2001年から2010年まで予測を行った。その結果、水田が減少し、農業用水に余剰が出ると予測された。一方、FAOなどの2020~2030年の人口と食料の予測では2020年以降の中期的には、食料不足が発生し、農業用水は不足基調となる。この点から今後、食料と水政策の重要性が増加する。

  • 担当:農業工学研究所・農村整備部・広域基盤研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7550
  • 部会名:農業工学・総合農業
  • 専門:用排水
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:行政

背景

ダム・幹線水路などの大型潅漑施設の整備には長い期間と大きな投資が必要になる。したがって、こうした大規模潅漑施設の建設や改修には、現在の農業の状況だけでなく、予想される将来の農業の状態の勘案が必要である。日本の潅漑の主対象である水田農業は、戦後、価格維持と輸入制限により、急激な変革を経なかった。今まで水田潅漑の施設整備計画は、過去の実績を元に、面積の拡大や水不足の解消を行うべく設計されてきた。しかし、今後の農家の高齢化、米の輸入自由化圧力により水田農業の急激な変革の可能性が高くなっている。そこで、水需要の影響を与える日本農業の考えられるシナリオを検討し、潅漑施設の整備計画への寄与を目的とする。

成果の内容・特徴

検討の方法は、表1にも示すように、農業用水の水需要を約50年前から現在までの技術のトレンドや原単位をもとに考える方法、最近20~30年の生産、輸入の動向をもとに、今後の短期的な輸入拡大の農業用水への影響を検討する方法、資源と人口のバランスが農業用水の需要に与える影響の中期的な予測を行う方法とがある。表1の項目は以下の項目番号を、引用は引用の種類を表し、成果の独自の根拠を示す。国土庁は大きな構造変化がない場合の水需要予測を時系列で評価している。本成果とは、構造変化を含めた潅漑技術と潅漑施設の側面から検討を行う点が異る。

  • 過去から現在の変化の総括
    1.1.水田潅漑技術の進歩
    過去100年程度の水田潅漑技術の進歩は、ダムや河川等の水源から、潅漑対象の水田に用水を運搬する送水ロスを減少させた。一方では、水田の地下浸透(減水深の一部)は増大した。送水ロスの減少分は渇水の危険度の低下とともに地下浸透に転化した。水田の水管理により地下浸透は節約の余地があるが、地盤沈下の危険もある。また、送水ロスの減少も環境問題を引き起こす可能性があり、今後は、今まで同様の大きな節水は困難である。
    1.2.潅漑と生活に必要な水量の原単位
    水田の必要水量は潅漑期に1,000mm程度である。これを1トンの米当たりに換算すると、2,500トンの水が必要である。つまり、米の輸入拡大は、水資源の輸入効果をもつ。生活用水量は一人当たり年間124トン程度である。仮に、肉の消費を押さえ、食料を全て自給すると考えた場合、現在の耕地面積を度外視して、水量だけからみれば、日本の水資源はぎりぎりで自給可能なレベルと評価できる。
  • WTO後の水利用のシナリオ分析による短期予測
    米の輸入が関税化された場合の変化は過去の関税化の例では、5年で2~3割の輸入拡大である。同様の変化を想定すると水田の約半分が減反になる。表2では米の生産費を減反の影響をうける変動費と影響を受けない固定費に分けて検討した。これから、減反の割合が半分になるシナリオでは、固定費が大部分を占める潅漑施設の管理費を支払えなくなり、ダム・頭首工による潅漑区域の単位で、集中的に耕作放棄が発生する。その場合、潅漑用水は一時的に余る。
  • 中期予測
    2020~2030年を中心に世界の食料自給の中期予測が行われている。最も悲観的なレスターブラウンの予測から、この時期には不足は生じないとする予測まである。各予測の違いは、食料と人口のギャップが生ずる時期であって、他は基本的には一致していて、2050年頃まで拡大すれば、どの予測も食料不足になる。つまり、中期的に見れば、食料は不足し、農業用水は不足気味で、確保が重要である。
  • まとめ
    過去50年間に引き続き、今後も農業用水の利用効率を向上させることは、地盤沈下、環境との調和を図る必要があり、困難になりつつある。しかし、灌概用水全体の供給は、水田の最低必要水量の倍程度あり、米価上昇や環境コストの内部経済化などにより、節水コストがかけられれば利用効率の向上が可能である。
    利用効率の変化が無視できるとして、短期予測では、灌概用水は国内では2020年頃までは余剰がでる。その後、中期予測では世界的な食料需給が逼迫し、国内生産を拡大する必要が生じ、農業用水は不足基調で、灌概用水の建設・改良の必要が出る。これらのシナリオは完全には相容れず、短期から中期への移行期のギャップを埋める工夫が重要である。

成果の活用面・留意点

予測は、シナリオ分析であるので、複数シナリオを考え、どの場合でも、被害をmini maxにするために活用すべきである。また、今後の状況の変化も考え続ける必要がある。

具体的データ

表1 水需要変化の考え方
表2 作付け率と米の生産費の分析

その他

  • 研究課題名:用排水需要変化を考慮した水利計画サブ・システムの開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成10年度(平成8~10年)
  • 研究担当者:丹治 肇、竹村武士、谷本 岳
  • 発表論文等:1)丹治 肇・谷本 岳:水田農業の危機と日本の水資源、第5回水資源に関するシンポジウム論文集、水資源シンポジウム委員会、pp.637~642(1997)
    2)丹治 肇:農業用水の将来変動に関わるインパクトの考察、水文・水資源学会研究発表会要旨集、pp.125~126(1997)
    3)丹治 肇・竹村武士:2020年の水田農業、農業土木学会誌、66(10)、pp.1035~1040、(1998)
    4)丹治 肇:21世紀の日本の農業用水の需要予測、水文・水資源学会誌、11(7)、pp.757~767(1998)