立坑式洪水吐の低コスト設計法
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要約
ダム・諦整池・ため池など、農業用貯水池の改修・建設コスト低減に有効な立坑式洪水吐について、更なる低コスト化を期して形状改良を行った。また、その施工性、安全性を向上できる立坑式洪水吐用ラビリンス堰を開発した。
- 担当:農業工学研究所・水工部・水源施設水理研究室
- 代表連絡先:0298-38-7564
- 部会名:農業工学
- 専門:用排水
- 対象:計画・設計技術
- 分類:普及・行政
背景
農業用貯水池には土石など自然材を堤体に用いたフィルダム形式が多い。このような貯水池では安全上、洪水吐と堤体が別々に設けられる為、改修や建設総コストに占める洪水吐部分の割合が高い。したがって、より低コストな洪水吐形式を開発する必要がある。ここでは、工事中の河川転流に用いる仮排水トンネルの下流部分を洪水吐導流部に利用でき、低コスト化が図れる立坑式洪水吐(図1)について、より一層の低コスト化を目指した形状改良を行った。
成果の内容・特徴
- 立坑式洪水吐は、現行設計基準に記載されているトンネル式洪水吐の一種で、トンネル内を高速で流下させ流積を極力低減させつつ、25%以上の空洞域を確保してトンネル断面積を設定する。この空洞域によりトンネル満流化による放流能力低下、即ち安全性の低下や浮流流下物によるトンネル閉塞を防ぐ。空洞域の確保に留意する必要はあるものの基本的な設計は、トンネルを用いない水路式洪水吐と同じである。
この洪水吐は地下構造となるので、地質が悪い所にも適し、環境・景観面でも有利となる。
- 立坑式洪水吐の低コスト化のため、曲管部(図1)、漸縮部の縮小限界を明らかにした。
- 曲管は上部から吊り下げて据え付けるので、その為の掘削コストを要す。
この掘削コストを低減させるには、曲管の小規模化、すなわち曲管曲率半径の低減が有効である。曲管上で満流化や過度の水脈飛散を起こさない曲率半径最小値を明らかにした(表1)。
- 立坑上部(図1)は浮遊流下物による閉塞が最も起きやすく、そのため、立坑断面は直径2m以上と十分に広げられる。しかし、この断面は掃流力の大きいトンネル部(図1)に対しては過大となる場合もあり、特に小規模ダムほどそうなりやすい。
このような場合、曲管とトンネル部の間に漸縮部を設けてトンネル全線の断面積を縮小するのが経済的で、その際、漸縮角を大きくすれば一層、経済的となる。
漸縮部で過度の水脈飛散を起こさない漸縮角の上限値を明らかにした(表1)。
- 上記、3、4の限界形状ではトンネル部に蛇行流が生じる。これが下流の減勢工に達すると減勢機能が阻害される。蛇行流が減勢機能に支障無い程度に十分減衰されるトンネル最小長さを明らかにした(表1)。
- 流入水路スペース(図1)を狭めればこの部分の掘削施工コストを低減できる反面、円周堰周りに渦や偏流を生じ流況が悪化する。
流入水路スペースを極力狭めても円周堰のような流況悪化を起こさず、かつ円周堰以上の放流能力が確保できる立坑式洪水吐用ラビリンス堰を開発した(図2)。
これらの堰は壁状の形なので、三次元の曲面施工となる円周堰よりも施工が簡便である。また、施工精度も確保しやすい。
成果の活用面・留意点
浮遊流下物の多い所では立坑式洪水吐の流入水路入口にアバ等の防塵施設を要す。また、少なくとも洪水吐トンネル~減勢工末端までの区間で仮排水トンネルの拡幅や路線の直線化を要すので、それらにより仮排水トンネルと洪水吐を併せた施工コストが却って大きくなる場合は経済的でない。
具体的データ



その他
- 研究課題名:農業用ため池の余水吐工の水理機能の解明
- 予算区分:経常依頼[新技術・郡山東部]
- 研究期間:平成10年度(平成6~10年)
- 研究担当者:常住直人、加藤敬、中西憲雄
- 発表論文等:1)常住、加藤、中西:ため池・調整池・ダムの低コスト化工法の開発、ARIC情報、47、p.46~50、1997、
2)常住、加藤、中西:調整池洪水吐の低コスト化設計手法の検討、H.9郡山東部地区水利構造物検討、1997、
3)常住、後藤、北條、上出、加藤、中西:特許申請、「取排水設備の呑み口構造」、1998、
4)常住、加藤、中西:ラビリンス堰を付設した立坑式洪水吐の流況と立坑式洪水吐の限界形状について、農工研技報、1999(投稿中)