基礎地盤及び地盤形状の相違によるフィルダムの地震時挙動の特徴

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要約

堤体最大横断面の二次元のみを考慮するこれまでの耐震設計では合理的に検討できない場合があることを示唆した。このような場合、特に堤長/堤高比が4~2以下の堤体形状のダムにおける地震時の安全性の検討には三次元動的解析が必要である。また、土質基礎上のダムにおいては、N値50以下の基礎も堤体の一部として地震時挙動を考慮する必要がある。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・構造研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7571
  • 部会名:農業工学
  • 専門:用排水
  • 対象:計測・設計技術
  • 分類:研究

背景

近年、良好なダムサイトの減少に伴いこれまでの硬岩基礎から軟岩及び土質基礎にフィルダムが築造されることが多くなっている。また、中山間地域の振興とともに谷形状が狭く複雑なダムサイトに築造されることも多くなっている。築造数の増加している土質基礎上のダムの地震時挙動は、土質基礎の地震時挙動を含めて明らかにされていなかった。また、地震時に観測される左右岸方向の振動は、設計に考慮される上下流方向の振動と同程度であるにもかかわらず、その特性は明らかにされていなかった。さらに、地形条件の基本的な問題点である地山拘束の及ぼす影響も変形の観点から検討されていなかった。このため、基礎地盤の地質及び地盤形状がダムの地震時挙動に及ぼす特徴を明らかにするために地震観測、振動実験及び三次元動的解析を実施した。

成果の内容・特徴

  • 振動が拘束のない上下流方向に卓越する場合のみだけでなく、ダム軸方向にも卓越する場合がある。
  • 加速度増幅及び振動数特性は堤体と地山とでは異なっている。このため、堤体と地山は異なる挙動を示しており、堤体と地山接合部付近では複雑な地震時挙動を生じていると考えられる。
  • 地震動の増大に伴い堤体内での加速度増幅率(堤頂の応答加速度を基礎の入力加速度で割った値)の増加はほぼ一定値となり、堤頂付近で急激な増加を示さない。逆に、地震動が小さい場合には堤頂で大きな増幅率となる。
  • 比較的軟質(標準貫入試験のN値が50以下)な土質基礎上のフィルダムの地震時挙動を推定する場合、土質基礎地盤を堤体の一部と見なす必要がある。
  • 堤長/堤高比(堤頂長を堤高で割った比)が小さい(谷が狭い)場合には、堤体振動に地山の拘束力が影響する。この場合には、堤頂全体で振動が生じ地山付近の加速度増幅率及び変形が大きくなる。逆に堤長/堤高比が大きい場合には、堤頂中央付近で急激に大きくなる。
  • 地山拘束による上記の振動特性の相違が生じる条件は、堤長/堤高比が4~2以下である。
  • モード重畳法による三次元動的解析は、実ダムの地震時挙動及び模型振動実験の結果を適切に表現することが可能である。

以上のことから、ダム軸方向への振動及び堤体と地山接合部付近の振動、また地震動の強弱による加速度増幅に対して堤体最大横断面の二次元のみを考慮するこれまでの耐震設計では合理的に検討できない場合があることを示唆した。特に、堤長/堤高比が4~2以下の堤体形状のダムにおける地震時挙動の検討には三次元動的解析が必要である。

成果の活用面・留意点

本研究の成果は、行政部局によるダム及びため池の地震時安全対策に活用される。また、合理的な耐震設計法の策定に資する。

具体的データ

写真1 振動台上のシリコーン動弾性ダム模型
写真2 シリコーン動弾性ダム模型の振動実験による振動モード

その他

  • 研究課題名:地盤形状及び剛性がフィルダムの地震時挙動に及ぼす影響
  • 予算区分:経常・依頼
  • 研究期間:平成7~10年度
  • 研究担当者:増川晋、安中正実、浅野勇、田頭秀和
  • 発表論文等:1)Yasunaka M., Masukawa S. and Tagashira H.:Earthquake Observation and Three Dimensional Modal Analysis of a Rook Fill Dam, Proceedings of the 11th World Conference on Earthquake Engineering, Acapulco, Volume of Abstracts, No.534, p.1009, 1996.6
    2)Masukawa S., Yasunaka M., Tagashira H. and Asano I.:Effects of ValIey Shape in Seismic Response of Fill Dams, the 12th World Conference on Earthquake Engineering, Auckland[1998.10投稿中(Abstract Reference No:95/5/A)]