農業用ため池の集水域特性と水質環境

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要約

ため池の水理諸元及び土地利用などの集水域特性のうち、深い水深や大きな山林原野面積率はため池の水質環境にプラス要因となり、長い滞留時間や大きな畑地面積率はマイナス要因として作用する。

  • 担当:農業工学研究所・水工部・水環境保全研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7545
  • 部会名:農業工学
  • 専門:基幹施設
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:行政

背景

ため池は水資源施設としての役割のみならず、地域の貴重なオープンスペースとしてその価値が見直され、多面的利用が各地で行われている。ため池の水質は、窒素、リンの流入、底質への沈殿等集水域における社会経済活動の帰結であり、集水域特性がため池水質に与える影響を把握することは、今後の水質保全施策を展開する上で重要と考えられる。
そこで、自然的・社会的条件が異なる全国のため池を対象として、水理諸元及ぴ集水域の農業、土地利用、気象等集水域特性とため池水質との関係について分析を行い、ため池の水質保全対策に資するものである。

成果の内容・特徴

  • 対象としたため池は、都道府県別のため池数に比例して任意抽出された、都市的地域及び平地農業地域にある556ヶ所(内、畜産排水が流入しているため池は39ヶ所)である。ため池の水質は、水面下50cmの表層で測定された既往の水質調査データを用いた。
  • ため池集水域における窒素の発生負荷の78%は、非点源排出負荷(山林原野、畑地、樹園地、水田、その他土地利用)であり、ため池の水質保全にとってその抑制対策が重要となっている(図1)。
  • ため池水質濃度を目的変数、ため池の属性を説明変数候補として重回帰分析を行った結果、水質濃度に与える影響の程度が比較的大きなものは、CODでは水深、年平均気温、平均降水量、T-Nでは山林原野面積率、年間日照時間、畑地面積率、T-Pでは水深、年間日照時間、その他土地利用である。また、水質濃度に与える属性は、T-Nでは土地利用特性が多く、COD、T-Pでは各属性にばらついている。(表1)
  • 平行箱型図による分析では、水深及び山林原野面積率は、すべての水質項目と負の相関、畑地面積率とT-Nは正の相関、年間滞留時間とCODは正の相関、などがみられた(図2、図3)。

成果の活用面・留意点

集水域特性がため池水質に与える影響要因とその度合いが把握できる。例えば、あるため池の水質予測や水質保全対策を立案する場合、当該ため池のどの属性にどの程度の重点を置くべきかの判断資料とすることができる。

具体的データ

表1 水質濃度に対する標準偏回帰係数
図1 ため池集水域における窒素の発生不可
図2 山林原野面積率とT-Nの関係

その他

  • 研究課題名:水田地帯の農業水利システムが有する水質形成機構の解明
  • 予算区分:経常・依頼
  • 研究期間:平成11年度(平成9~11年度)
  • 研究担当者:高橋順二、白谷栄作、吉永育生
  • 発表論文等:1)高橋順二・白谷栄作・吉永育生:我が国の農業用ため池特性と水質の関係について、農土論集199、107-117、1999
                      2)Junji Takahashi, Eisaku Shiratani, Ikuo Yoshinaga:Relationship between the characteristics and water quality of irrigation ponds in Japan, JARQ(2000,in press)