探索的データ解析による水環境整備事業の整備費用の上限近傍値の算出

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要約

環境関連事業である水環境整備事業の整備面積と全事業費に基づく探索的データ解析による整備費用の上限近傍値は面積当たり事業費で、10万円/m2である。

  • 担当:農業工学研究所・農地整備部・広域基盤研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7550
  • 部会名:農業工学
  • 専門:農地整備
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:行政

背景

環境整備が目的の水環境整備事業では、事業効果の発現計測は困難である。一方、効果に見合った事業の適正な整備費用は計画の立案上は問題である。今まで、この事業の整備費用の検討事例はない。その理由に、(1)地域の個性を生かす結果生ずるレンジの評価の必要性、(2)費用等の数値データに混入する異常値排除の困難があげられよう。
ここでは、全事業費と整備面積に、Turkyらの探索的データ解析を利用し、水環境整備事業の整備費用の目安となる過去の面積当たり事業費の上限近傍値(最大値より小さいが分布型から見て異常値の混入のない上限に近い値)の分離を目的とする。

成果の内容・特徴

行政部局と協力して平成9年と10年に水環境整備事業完了102地区の管理者を対象とし、事業の費用、規模、効果、地域特性、利用者特性をアンケートで調査した。うち、項目を全事業費と整備面積に限定して分析を行った。理由は、次の経過で重複データによる信頼度評価と異常値判定が可能なためである。1回目の調査で「地区面積」とした整備面積は、水面積等の未整備面積を含む可能性があった。事業費は単位誤認の可能性があった。その結果バラツキと異常値がみられた。そこで、2回目の追加調査を行った。

  • 第1回目の事業費y1を第2回目の事業費y2で割ったp=y1/y2で事業費の信頼度を評価した。評価はp=1が最高である。明らかな単位(円、千円、百万円)の記載間違いは修正した。
  • 同様に、第1回調査の水面積x3に第2回調査の整備面積x2を加えたもので、第1回調査の整備面積(地区面積)x1を割ってq=x1/(x2+x3)を求め、整備面積の信頼度を評価した。ここでも、m2で記述すべきところをaで記述している等の単位間違いは修正した。
  • p、qの分布を図1に示す。10倍を長さ1とした各点の(1、1)からのグラフ上の実距離を総合信頼度r(>0)とすれば、r=(log(p)2+log(q)2)1/2が成り立つ。図1では、除外データを全体の1割程度に押さえるように、高信頼度と低信頼度をr=0.7で分けた。円の内側が高信頼度、外側が低信頼度である。なお、p、q片方のみのデータは低信頼度に分類した。
  • 図2に、面積当り事業費を全体、高信頼度、低信頼度の3グループに分け箱ひげ線図を書いた。全体と高信頼度は同じ形の線図であり、箱ひげ図を用い信頼度評価なしに上限近傍値が分離できる。上の爪の値は第3四分位値と第1四分位値の差(IDQ)の1.5倍と第3四分位値の和である。高信頼度の上限近傍値は、全体の上限近傍値に一致し、第3四分位値に1.5IDQを加えた爪の10万円/m2である。
  • 図3に、以上の2種類のデータを仮に正規分布に変換した確率プロットを示す。全体と高信頼度は、90%で8万円/m2までほぼ一致する。この値は、若干、4.の10万円/m2より小さいが、高信頼度では97%で10万円/m2が面積当たり事業費の上限近傍値になる。

成果の活用面・留意点

水環境整備事業の計画立案の参考になる。今後、新規地区増に合わせ、改訂が望ましい。

具体的データ

図1 総合信頼度
図2 面積当たり事業費の箱ひげ線図
図3 面積当たり事業費の確率プロット

その他

  • 研究課題名:水利施設の農業外機能の評価に関する基礎的研究
  • 予算区分:経常、依頼
  • 研究期間:平成11~13年
  • 研究担当者:丹治 肇・竹村武士・谷本 岳
  • 発表論文等:丹治 肇・竹村武士・谷本 岳:水環境事業の整備水準について、応用水文12、118-127、1999