移動境界を導入した多層レベルモデルによる準三次元流れ解析法

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要約

流れの準三次元解析法において、水位が変動しても表層への影響が少ない解析法(多層移動境界法)を開発し、有効性を検証した。本手法の導入により、水位変動のある河口域などでも層分割を細かくした解析が可能となる。

  • 担当:農業工学研究所・水工部・河海工水理研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7568
  • 部会名:農業工学
  • 専門:用排水
  • 対象:現象解析技術
  • 分類:研究

背景

貯水池や密度差がある流れの数値シミュレーションでは、解析領域を層分割し各層で二次元計算を行う多層レベルモデルによる準三次元解析が行われる場合が多い。しかし、多層レベルモデルは表層の層厚が水位変動量に依存するため、水位変化がある河口域などへの適用には制限がある。このため、二次元洪水氾濫解析で用いられる移動境界手法を多層に拡張し、水位が変動しても表層への影響が少ない計算方法(多層移動境界法、以下本手法)を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本手法では、あらかじめ水位の上昇が見込まれる領域まで層分割を行い、分割された要素を3種類に分類する。ここで、水位変化とともに要素の分類を変更することにより水面が層の境界を超えて移動することを可能にした。
  • 多層レベルモデルでは、水位が高くなるほど流速や塩分濃度などの物質量が平均化されてしまうという問題があった( 図1左)。これに対し本手法では、平均化の度合いを小さくでき(図1右)、表層付近での再現性を向上させることが可能となる。
  • 本手法の検証のため、直線水路を12層に分割し、波の伝播の解析を行った。各層の鉛直方向流速(図2)で、第3層から第7層までの結果が途中で途切れているのは、時間の経過とともに水面が層間を移動するためである。また、図2から水面が層間を移動する前後でも振動することなく解析できているといえる。
  • 多層レベルモデルと本手法で得られた鉛直方向流速を比較した結果(図3)、本手法では水面付近の流速が水面から1mの点での理論値(図3、○)と良く一致しているのが確認された。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は、河口域で水面付近を拡散する淡水の流れの解析や貯水位が時間的に変動する農業用ダム貯水池での表層の水質予測などに適用が可能である。
  • 成層流の解析に本手法を用いることで、細かな層分割が可能となり流速や塩分濃度などの再現性の向上が期待される。

具体的データ

図1 多層レベルモデルと多層移動境界法の概念の比較
図2 角層の鉛直方向流速
図3 表層の鉛直方向流速の比較

その他

  • 研究課題名:河口閉塞防止に対する密度流の解析技術の開発
  • 予算区分:経常(依頼)
  • 研究期間:平成11年度(平成10~12年)
  • 研究担当者:桐 博英、藤井秀人、中矢哲郎
  • 発表論文等:1)桐、藤井、中矢:河口域における塩分濃度解析とその可視化日本学術会議50周年記念シンポジウム「C.G.で見る流れの世界」講演論文集、46-48(1999)
                      2)桐、藤井、中矢:大きな水位変化を伴う流れの解析法農土論集205、101-107、2000