比抵抗モニタリングにおける地中温度変化の影響

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要約

電気探査の繰返し測定により地下の物性変化を比抵抗変化としてとらえる比抵抗モニタリングを長期的に実施する際、地表付近の見かけ比抵抗変化には地中温度変化を要因とする年変化の影響がある。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・土木地質研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7578
  • 部会名:農業工学
  • 専門:情報処理
  • 対象:計測・探査技術
  • 分類:研究

背景

地層の比抵抗は、主に間隙率、水飽和度及び孔隙水の比抵抗によって変化することから、特に間隙率と水質を一定と仮定して、比抵抗モニタリングによって孔隙水の分布や移動を把握する研究が多く報告されている。しかし、孔隙水比抵抗の温度依存性は一般に認知されている一方で、比抵抗モニタリングにおける地中温度変化の影響は考慮されてこなかった。このため、兵庫県の神戸層群地すべり地において季別に行った電気探査比抵抗法による比抵抗モニタリング結果と現地観測資料との比較から、比抵抗変化要因に占める地中温度変化の割合とその考慮の必要性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 季別の電気探査結果を見かけ比抵抗断面図で比較すると、対数的階調で示される比抵抗分布パターンには変化がない(図1)。ここで1997年8月上旬の測定値を初期値(ρao)として、1999年4月までに実施した6回の探査の測定値(ρai)について見かけ比抵抗変化率(dρai)を次式
                      dρai=(ρai-ρao)/ρao×100(%)
    で定義し、見かけ比抵抗変化率分布図を作成して比較すると、地表付近を中心に冬季に高比抵抗化し、夏季に低比抵抗化する見かけ比抵抗の年変化が認められる(図2)。
  • 見かけ比抵抗変化率を探査深度毎に平均し、その季別変化を見ると、浅部ほど大きな振幅を持ち、変化率の増大は降水量の減少と気温及び地中温度の低下に調和する(図3)。しかし、図3を詳しく見ると1997年8月上旬の直前には先行降雨が多かったのに対し、先行降雨が少なかった1998年8月下旬にはむしろ低比抵抗化しており、降雨浸透から期待される水飽和度変化と観測された見かけ比抵抗変化には不調和な部分がある。
  • 測線上の調査孔における中性子水分検層によると、地下水面付近を除いて夏季と冬季の水分プロファイルは変化を示さず、水飽和度の顕著な変化は認められない(図4)。また、地すべり崩土中の地下水位には大きな季別変化は認められなかった。
  • 室内試験では、試験地の崩積土試料は、8月から3月の1m深地温差に相当する25°Cから10°Cの温度変化に対して4.5Ωmから7.3Ωmと62%の比抵抗変化を示す。これはこの期間の最大の見かけ比抵抗平均変化率と調和する。
  • 以上により、本試験地では見かけ比抵抗変化の主要因は地中温度変化に求められる。この影響を考慮すると、本試験地では地表付近の水飽和度の年変化は小さいと評価できる。このように、長期にわたる比抵抗モニタリングでは地中温度測定を併用し、温度による比抵抗変化の影響を考慮することが必要である。

成果の活用面・留意点

地中温度変化の影響を考慮することにより、比抵抗モニタリングによる地すべり地における地下水流動経路把握や地下水排除工の効果判定の精度向上が期待される。今後、水飽和度変化の大きい試験地において、地中温度変化の影響の分離手法を検討する必要がある。

具体的データ

図1 2時期の見かけ比抵抗断面図
図2 見かけ比抵抗変化率分布の季別変化
図3 見かけ深度別見かけ比抵抗平均変化率の季別変化
図4 中性子水分検層計数率比の季別変化

その他

  • 研究課題名:地下構造精査のための比抵抗トモグラフィ法の高度化
  • 予算区分:経常・依頼
  • 研究期間:平成11年度(平成7~11年)
  • 研究担当者:中里裕臣、黒田清一郎、長束勇、畑山元晴、奥山武彦、森充広(現東北農政局)
  • 発表論文等:1)中里裕臣・奥山武彦・森充広・黒田清一郎・下川弘晃:地すべり地における比抵抗モニタリング、第37回地すべり学会研究発表講演集、253-256、1998.
                      2)中里裕臣・竹内睦雄・金喜俊:電気探査法の技術動向とその適用性の評価、農土誌67(11)、19-26、1999.