ため池、潅漑用ダムの空き容量による洪水ピーク低減機能

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要約

ため池や潅漑用ダムは、潅漑用に貯水を放流することにより生ずる空き容量で洪水ピークを低減できる。また、ため池や潅漑用ダムの空き容量を広域的に数量評価することによって、洪水低減機能を公益的に重要な多面的機能として評価する。この空き容量は、潅漑用ダム、ため池が農業用水源として管理されていることにより生じている。

  • 担当:業工学研究所・水工部・水源施設水理研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7564
  • 部会名:農業工学
  • 専門:基幹施設
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:行政

背景

わが国では、古くからため池による潅漑が行われ、受益面積2ha以上のため池だけでも全国で7万ケ所に達する。また、近年になって1,000ヶ所以上の潅漑用ダムが建設されて農業水利施設の整備が行われ、食料生産の安定に貢献している。ため池や潅漑用ダムは、非潅漑期の豊水時に貯水して、潅漑期の低水時に放流するため、水資源を涵養する。また、ため池やダムに空き容量がある場合に、洪水時のピーク流量を小さくする洪水低減機能を発揮すると考えられる。このため、香川県と大阪府のため池及び潅漑用ダムの0ダムを対象に、洪水低減機能のメカニズムを解明して、空き容量が洪水低減機能の評価指標となることを明らかにする。さらに、広い地域にある多数のため池の洪水低減機能を全体的な空き容量の推計で評価し、これをため池の洪水低減機能の評価指標(マクロインディケータ:MI)とする。この空き容量は、潅漑用ダム、ため池が農業用水源として管理されていることにより生じている。

成果の内容・特徴

  • 広域のため池空き容量の評価
    1)香川県の主要なため池(182ヶ所、26年間)の月別平均貯水率と昭和60年の貯水率を見ると図1に示すように、平均貯水率は1月から徐々に増加して6月にほぼ満水となり、その後、潅漑による放流によって低下し、台風期の9月には60%以下まで貯水率が低下する。昭和60年は9月に貯水率が50%になっている。この結果から、香川県のため池16,304ヶ所、貯水容量146,502千m3に対する昭和60年9月の空き容量は73,251千m3となる。
    2)水田面積29,518ha(整備率15.2%)に対して、水田の洪水防止機能を評価する志村理論によって水田の貯水容量を求めると29,518千m3となり、ため池の空き容量は水田の貯水容量の2.5倍になる。大阪府では2.8倍となった。(表1)、(表2)
    3)以上より、ため池は潅漑のために放流する農業用管理によって、水田の貯水容量以上の空き容量になり、洪水のピーク流量を低減する洪水防止機能を持つ実態を明らかにした。
  • 潅漑用ダムの空き容量と洪水低減機能
    1)0ダムにおいて、日雨量167mm、最大時間降雨量58mm/hrで、洪水ピーク流量1,018.5m3/sの洪水が生じたときのダムの流入量と放流量は図2に示すようになっている。流入した洪水の一部が貯留されピーク放流量が822.8m3/sとなり、洪水のピーク流量が195.7m3/s(洪水ピーク流量の19.2%)低減できた。これは、貯水池がもつ洪水ピーク低減機能である。このとき、0ダムは有効貯水量2,670万m3に対して、空き容量が489万m3であった。空き容量は洪水ピーク低減機能に重要な役割を果たしている。
    2)潅漑用ダムは、潅漑期の始まりには満水とするが、水田潅漑の終期(9月)には用水の放流が進み空きが大きくなる。図3に示す昭和63から平成8年の9年間平均の0ダムの月初めの貯水空き容量を見ると9月は800万m3以上となっている。9月は台風の季節に当たり洪水ピーク低減機能が期待できる。

具体的データ

表1 香川県のため池空き容量(昭和60年)と志村理論による水田の貯留可能容量
表2 大阪府のため池空き容量(平成6年)と志村理論による水田の貯留可能容量
図1 香川県における主要なため池の月別貯水量
図2 Oダムにおける洪水時の流入量と放流量事例
図3 Oダムにおける月初めの平均空き容量

その他

  • 研究課題名:水田用潅漑ダム、ため池の洪水低減機能の評価
  • 予算区分:総合的開発研究(貿易と環境)
  • 研究期間:平成11年度(平成8~12年)
  • 研究担当者:中西憲雄(現東海農政局)、加藤敬、常住直人、中達雄(現水路工研)、桐博英(現河海工研)
  • 発表論文等:1)中西憲雄、加藤敬、常住直人、中達雄:農業用ダム・ため池の洪水低減機能の評価、日本雨水資源化システム学会講要、1~4、1998
                      2)中西憲雄、加藤敬、常住直人:農業用ダムが発揮する洪水低減機能の解明、農土論集、103-109、1999