稲作の全要素生産性による圃場整備の総合的評価手法

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要約

稲作における圃場整備の事業効果に関し、労働等の個別変化のみによる従来の評価指標を改善するため、個々の受益者のデータに基づき、規模の経済性の発現等を総合的に評価する全要素生産性を指標とした評価手法を開発した。適用の結果、圃場整備により受益者全体で稲作生産効率の向上が1.12~1.25倍と、定量的評価が可能となった。

  • 担当:農業工学研究所・農村整備部・地域計画研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7549
  • 部会名:農業工学
  • 専門:農村整備
  • 対象:計画・設計技術
  • 分類:研究・行政

背景

公共事業の効率的実施が求められる中で、農村総合整備では、政策評価の一環として事業効果を定量的に示すことが重要課題となっている。しかし、農村総合整備のうち生産基盤整備の中心工種である圃場整備では、労働生産性等の個別生産性による評価が中心である。そこで本研究では、規模の経済性の発現等を総合的に評価する指標である全要素生産性に着目し、圃場整備による労働時間変化等の個別受益者データから指標を定量化する手法を開発して、より効果の高い事業計画策定上の留意点を明らかにした。

成果の内容・特徴

  • 分析の方法
    平成10年度圃場整備完了地区の稲作を事例として、個別受益者に対するアンケート調査を行い事業前後の労働時間、農業機械資本ストック額、生産量の変化を把握する。これら生産要素等の変化に基づいて成長会計分析を行い全要素生産性の変化を定量化し、整備による稲作生産効率の向上面から圃場整備の事業効果を総合的に把握する。
  • 分析結果の特徴
    1)労働、資本、生産の変化( 図1参照)
    平成10年度圃場整備完了167地区の整備前後で比較し、単位面積当たりの変化で生産量が微増、労働時間が大幅減少、農業機械資本ストック額が増加ないし横這いである。したがって整備は、労働から資本への代替を促進する。規模別には、労働時間は大規模ほど大きく減少し、資本額は小規模では低下するが、担い手ではほぼ横這いとなる、
    2)稲作生産効率の改善状況(図2参照)
    整備により受益者全体で稲作生産の全要素生産性が1.12~1.25倍になり、総体として稲作生産の効率性が改善される。改善の度合いは大規模層ほど大きく、担い手層では約1.6倍の向上を示す。したがって、より事業効果の高い事業計画策定のためには、農村総合整備計画においても農地集積のための計画を別途策定し、担い手層への計画的な農地集積を実現することが重要と考えられる。

成果の活用面・留意点

農村総合整備の生産基盤整備をはじめ他の農業施策において本手法の指標を活用することにより、総合的かつ定量的な評価が可能となる。ただし、データの制約から個別事業地区ごとの評価は困難で、複数地区を含む地域全体の状況把握に適する。

具体的データ

図1 稲作の単位面積当たり生産要素等の圃場整備による変化(整備前=1.0)
図2 全要素生産性指標による圃場整備の稲作生産効率攻城(事業前=1.0)

その他

  • 研究課題名:便益帰着法による農村整備効果の定量的分析手法の開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成12年度(平成12~14年)
  • 研究担当者:國光洋二、松尾芳雄、友正達美
  • 発表論文等:1)國光・松尾:圃場整備による稲作の全要素生産性変化に関する計量分析、農林業問題研究、36(4)、265-269、2001.
                      2)國光・松尾:圃場整備完了地区の事業効果評価に関する研究、農業土木学会第51回関東支部大会講演要旨、35-37、2000.