農業用ダム流域からの流出土砂量の簡易予測手法

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要約

農業用ダム流域からの流出土砂量を予測する手法を提案した。本手法により、流域面積、気候区分および地質区分から、流域面積が100km2程度までの比較的小さな流域から流出する土砂量を簡易に予測できる。

  • 担当:農業工学研究所・水工部・河海工水理研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7568
  • 部会名:農業工学
  • 専門:基幹施設
  • 対象:現象解析技術
  • 分類:研究

背景

農業用ダム貯水池への土砂流入は、貯水容量を減少させ、結果としてダムの寿命を短くさせる。このため、流域からの土砂流出を規定する要因を明らかにし、流出土砂量を予測することは、農業用ダムの維持・管理上、重要である。
一方、発電用のダムでは流域全体から流出する土砂量の予測式が作られているが、農業用ダム流域は、発電用ダムなど他目的のダム流域と比較して流域面積が小さいという特徴があり(図1)、従来の予測式をそのまま適用するには問題がある。このため、農業用ダム流域全体から流出する土砂量を簡易に予測する手法を提案した。

成果の内容・特徴

全国66箇所の農業用ダムの管理者に対して行った、堆砂に関するアンケート調査の結果を分析し、農業用ダム流域全体から流出する土砂量を規定する要因を検討した。

  • 農業用ダム流域を気候区分(関口武の気候区分図による)と地質区分で表1のように分類し、流出土砂量q'sと流域からの平均年流出水量 I(以下、「流出水量」)の関係を明らかにした(図2)。
  • 図2の結果をもとに、流出水量から流出土砂量を予測する式(1)を提案し、農業用ダム貯水池の堆砂量データから算出した係数βを整理した(表1)。
    q's=10βI-0.69[m3/km2/year](1)
  • 流出水量データを入手できない場合を想定して、流出水量と流域面積F [km2]の関係式(2)をもとに、流域面積から流出土砂量を予測する式を導くと式(3)のようになる。
    I=0.8202F1.1055×106 [m3/year] (2)
    q's=8.306×10(β-5)F-0.763[m3/km2/year](3)
  • 式(3)で予測した流出土砂量を、農業用ダム貯水池の堆砂量データから求めた流出土砂量と比較すると図3のようになった。

成果の活用面・留意点

  • 気候、地質区分の中にはサンプル数が少ないものが多いため、更なるデータ収集により係数の修正を行い、予測精度の改善を図っていく必要がある。
  • 本予測式は、流域面積が100km2程度までの、比較的小さな流域に適用が可能である。

具体的データ

 表1 気候、地質区分の分類とβ
図1 ダム貯水容量と流域面接の関係
図2 平均年間流出量と流出土砂量の関係

図3 流出土砂量の実測値と予測値の比較

その他

  • 研究課題名:農林地流域の土砂流出の規定要因の評価
  • 予算区分:環境研究(貿易と環境)
  • 研究期間:平成12年度(平成8~12年)
  • 研究担当者:桐 博英、藤井秀人、中矢哲郎、樽屋啓之
  • 発表論文等:1)樽屋啓之、北田二生 農業用ダムの貯水池堆砂要因に関する考察 農土誌64(10) pp.59-65 (1996)
                      2)H.Taruya H.Fujii Current Conditions of Reservoir Sedimentation in Japan, JARQ (1997)
                      3)樽屋啓之、中 達雄、藤井秀人 農業用ダムの濁水問題に関する全国調査の分析 農土誌66(11) pp.1-8 (1998)