比抵抗トモグラフィ法によるフィルダム堤体挙動監視システム

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要約

フィルダム堤体の築造時にあらかじめ堤体全体を囲んで電極を埋設し、比抵抗トモグラフィ法を用いて、フィルダム堤体の貯水による浸透状況を2次元的に監視できるシステムの開発を行った。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・土木地質研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7577
  • 部会名:農業工学
  • 専門:基幹施設
  • 対象:計測・探査技術
  • 分類:研究

背景

従来、築造後のフィルダムの安全監視は、堤体埋設計器の挙動観測や周辺地山ボーリング孔の水位観測等によって行われているが、堤体埋設計器は落雷や経年劣化により埋設後数年でその信頼性が落ちる場合がある。さらに、これらから得られるデータは点のデータであり、必ずしも異常箇所を特定するのに十分ではない。
そこで、地下の比抵抗分布を2次元的に把握できる比抵抗トモグラフィ法を用い、フィルダム遮水部およびその周辺部の温度分布や含水状態を比抵抗変化としてモニターすることによって、遮水部の浸透状況を2次元的に監視するフィルダム堤体挙動監視システムの開発を行った。

成果の内容・特徴

  • 本監視システムは、フィルダム堤体の築造時にあらかじめ電極を埋設し、堤体全体を囲んで電極を設置する方法を採用した( 図1)。
  • 実ダムにおける実証試験を予定するにあたり、農業工学研究所敷地内に堤高105cm、堤頂長700cm、天端幅90cm、底幅300cmの小規模な試験堤体を築造し(図2)、貯水前と貯水14日後に比抵抗トモグラフィ法による計測・解析を行った。
  • 試験堤体において堤体内の浸潤線の把握を試みた結果、貯水に起因して上流側の法面に沿って層状に比抵抗が低下している領域が見られた(図3のNS-2断面)。2%以上変化した領域をみると、法面表面から5~15cmまで水が浸透していることになる。
  • 上記3.の結果は、現場において計測した盛土材料の透水係数(約1×10-5cm/s)、貯水後の経過時間(14日間)、および動水勾配と矛盾しないものである。オープンピエゾメータによる観測でも、上流側法面付近の間隙水圧は上昇しているが、その他の堤体内部では有意な変化は見られず、間隙水圧の挙動とも整合がとれている。
  • 本監視システムにおいて、測定システムの高精度化を図ることにより、測定データの再現性が著しく向上した。また、探査対象領域を完全に取り囲むことによって解析精度の向上が見込まれる。さらに、埋設する電極は耐腐食性の金属片であり構造が単純で可動部がないため経年劣化が少なく、現状の埋設計器類と比較すると長期的な使用が可能である。

成果の活用面・留意点

周辺の地盤を含む3次元効果の影響について、さらに検討が必要である。

具体的データ

図1 堤体安全監視システムの概要
図2 試験堤体および埋設電極などの配置概要
図3 比抵抗変化率分布図

その他

  • 研究課題名:比抵抗トモグラフィ法による堤体安全管理技術の開発
  • 予算区分:経常・依頼
  • 研究期間:平成12年度(平成12~14年)
  • 研究担当者:畑山元晴,長束勇,中里裕臣,黒田清一郎,民間(新技術研究開発組合)
  • 発表論文等:1)長束・櫻井ら,比抵抗トモグラフィ法によるダム管理システムの開発その1、第102回物理探査学会学術講演会論文集、317-321、2000.
                      2)長束・森ら,比抵抗トモグラフィ法によるフィルダム安全管理システムモデル実験、平成12年度農業土木学会大会講演要旨集、596-597、2000.
                      3)長束・畑山ら,ため池の堤体安全監視システムに関する実験的研究、雨水資源化システム学会誌、6(2)、27-32、2000.
                      4)森・長束ら,高柴調整池に導入予定の新しいフィルダム安全管理システムの概要、水と土(農業土木技術研究会)、No.123、22-31、2000.