ため池の貯留量増加に伴う水質改善効果

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要約

調査対象としたため池では、農業用水水質基準(水稲)を満たしていないものが多く、富栄養化現象が顕著に見られる。浚渫によって貯留量の増加したため池では灌漑期間中の全チッソに抑えることが予測される。

  • 担当:四国農業試験場・地域基盤研究部・基盤整備研究室
  • 代表連絡先:0877-62-0800
  • 部会名:農業工学
  • 専門:農村整備
  • 対象:維持・管理技術
  • 分類:行政

背景

近年では、都市化の混住化などの社会環境の変化に伴い、ため池の水質悪化が進み、問題が表面化してきている。そこで本研究では、神奈川県内の7つのため池と農業用水路の水質悪化の現況を明らかにするとともに、ため池の浚渫による貯留量の増加を想定した場合の水質改善の可能性について検討し、行政がため池の整備事業を推進するに当たり、その妥当性を考慮する参考とする。

成果の内容・特徴

  • 調査対象とした7つのため池( 図1)のうち、特に人工餌を投入して養殖を行っている2つのため池(D池、F池)では全観測期間を通して顕著な富栄養化現象が見られたが、全体的に見ても農業用水水質基準(水稲)値を上回る割合は高く、pHでは全観測サンプルの90%にも及び、COD(化学的酸素要求量)、TN(全チッソ)、TP(全リン)でも約半数を占めていた(表1)。
  • 浚渫工事に伴う貯留量の増加によって、灌漑期間におけるため池内のTN濃度は下げられるとともにその変動も小さく抑えられ、浚渫による水質善効果が顕著に現れるため池では、貯留量が1.4倍になった場合に、TN濃度を最大で60%程度に抑えることができる(図2)。
  • 直接浚渫されない下流のため池(子池)でも、上流のため池(親池)が浚渫されて貯留量が1.5倍になった場合には、親池からの負荷の減少による水質改善効果が現れ、TN濃度を最大で10%程度を抑えることができる(図3)。

成果の活用面・留意点

本成果は、今後、行政によるため池整備事業等へ反映されることが期待される。
ここで行ったシミュレーションでは、最上流水路での流量と水質の実測値から各池へ流入する日水量とTN濃度を算定し、代かき日の分布と水稲の成育段階別の減水深の実測値から、それぞれのため池の受益面積に応じた日灌漑用水量(日放水量)を求めた。次に、流入時のTNが滞留する日数dを一定として一日に(1/d)の流入水が混合されると仮定し、流入からn(=1~d)日目のため池内のTN濃度(放水時の濃度)を算出した。また、放水開始時にはため池が満杯であるとした。
なお、水質改善効果の大きさは浚渫の模様だけではなく、もとの貯留量の大きさによっても異なることに留意する必要がある。

具体的データ

表1 農業用水水質基準に対する不適合割合
図1 調査対象ため池の分布の概略
図2 浚渫されるため池のTN濃度変化のシミュレーション
図3 親池が浚渫された場合の子池のTN濃度変化のシミュレーション

その他

  • 研究課題名:用水系統の流量増加に伴う水質改善効果の評価
  • 予算区分:経常・依頼
  • 研究期間:平成12年度(平成11~12年度)
  • 研究担当者:内田晴夫・井上久義・細川雅敏
  • 発表論文等:「香川用水土器川沿岸地区に係るため池等水質調査」平成11年度報告書(四国土地改良調査管理事務所依頼報告書)
                      「土器川沿岸地区のため池・農業用水路における水質」、四国農試場報告(印刷中)