水田表面水における指標微生物削減機能

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要約

農業集落排水の2次処理水を用いて、模型水田灌漑実験を行った。水田表面水における糞便性大腸菌群の減衰速度は約0.6 log/dであり、水田には表層流型の人工湿地と同じオーダーの微生物削減機能があることを明らかにした。

  • 担当:農業工学研究所・農村環境部・環境評価研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7684 Mail Address
  • 区分:研究
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農村地域の土地資源を有効利用しつつ水質保全を図るため、休耕田や放棄水田を農業集落排水の3次処理施設として活用する試みがなされてきた。しかしそれらの多くは窒素・リン除去に着目したものであり、農村地域の衛生環境を守るための病原菌の削減を目的とするものは少なかった。そこで水田のもつ微生物削減機能の評価を行った。

成果の内容・特徴

  • 降雨および下方浸透を遮断した模型水田(粘質土)においてイネを栽培し、これに農業集落排水処理施設にて採取した2次処理水(塩素消毒前)を間欠的に灌漑した(図1、図2)。2次処理水灌漑直後からの、水田表面水における指標微生物の減衰過程を調査した(図2)。図2において、糞便性大腸菌群は病原性細菌の、また大腸菌ファージは病原性ウイルスの、それぞれ指標とされている微生物である。
  • 調査した指標微生物は灌漑直後から減衰し、目立った再増殖も観察されなかった(図2)。糞便性大腸菌群濃度については、灌漑から1週間程度でWHOの定める無制限に灌漑利用可能なガイドラインの水準(1000個/100mL以下)まで低下した。
  • 実験末期に測定した水田土壌中の大腸菌群数は低く(7.2×102 (CFU/g TS))、また土壌を排した対照実験との比較から、微生物の減衰は、主として水田表面水における光合成に伴うpHの上昇や紫外線などの効果によると推定された。
  • 実験期間中の糞便性大腸菌群の減衰速度は、0.45~0.82(平均0.62)log/d と推計された。これに対して表層流型人工湿地を用いた既往の研究において、糞便性大腸菌群の減衰速度は0.18~0.78(平均0.44)log/d であった。したがって水田は、表層流型人工湿地とおおむね同じオーダーの微生物削減機能をもつことが示された。

普及のための参考情報

水田を3次処理施設として利用する場合には、窒素・リン除去と同時に、指標微生物の除去が期待できる。なお本実験は実圃場の基本的な特徴を再現しているが、実圃場の多様な環境条件に精緻に対応するには、気候条件や水管理方法の相違等による微生物減衰の変動に配慮する必要がある。

具体的データ

図1 実験の模式図
図2 水田表面水における水深と指標微生物の変動

その他

  • 研究課題課題名:集落排水処理水の再利用における指標微生物の動態の解明
  • 中期計画大課題名:有機物循環利用のための処理技術及び自然エネルギー利用技術の開発
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2001~2002年度
  • 研究担当者:上田達己、石田憲治、松森堅治、端 憲二
  • 発表論文等:Ueda, T., Ishida, K., Matsumori, K. and Hata, K., Rice paddy field for the removal of indicator microorganisms, Water Research, 投稿中