耕作放棄による流出量変化を推定する中山間水田流出モデル

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要約

中山間水田の耕作放棄が流出に与える影響を評価するための中山間水田流出モデルを開発し、44個の実測洪水データに適用した。そこでの耕作、気象、水管理の変化が降雨流出に及ぼす影響は、最適化したモデルパラメータの変化から評価できる。

  • 担当:農業工学研究所・地域資源部・水文水資源研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7537 Mail Address
  • 区分:研究
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年、中山間地域や台地流域では過疎化・高齢化が進み、労力低下とともに農地の耕作放棄が進んでいる。一方、これらの地域の水田は、適切な維持管理のもとではその構造上から洪水防止機能等の国土保全機能を有しているといわれるが、耕作放棄の増加によりこれらの諸機能が低下することが危惧されている。しかし、耕作放棄地が流出に与える影響については定性的な予測にとどまり、その評価指標やシステムは確立していない。ここでは、耕作水田と耕作放棄水田からの流出調査で得られた実測データを基礎資料として、中山間水田流出モデルの開発を行った。さらに、そのモデルにより最適化されたパラメータと流出形態の相互変化から耕作放棄が降雨流出に与える影響を総合的に検討した。

成果の内容・特徴

  • 耕作放棄による流出変化や水田の水管理を考慮できる中山間水田流出モデルを開発した(図1)。亀裂の消長、水管理による落水口管理、畦畔法面からの流入等の中山間地水田の流出の特色を考慮できる点が特徴である。
  • 上記モデルを新潟県松代調査試験地の実測洪水データ(平成5~7年の44出水)に適用した結果、ピークや逓減部がやや小さく推定される傾向があるものの、大干ばつの前後における変化も含めて耕作区と放棄区ともに実測値と計算値がよく一致した(例えば図2)。ただし、同図は大干ばつ前の例である。
  • 流出パラメータの決定には、最適化手法(SP法)を用い、耕作区と放棄区それぞれの流出ごとの結果を比較した。その結果、各パラメータは圃場の水管理状況や土壌乾湿条件の変化に適応して最適化がなされていることが明らかになった(図3)。
  • モデル計算値と実測との相対誤差は耕作区と放棄区それぞれの平均で34.8%(最良11.5%)、34.3%(同19.3%)であった。標準的なパラメータとして全流出の平均値を使うと、推定精度は悪化するものの、反対にこの標準値を初期値として最適化を繰り返すと、個々の流出量の精度が当初のものよりさらに良くなることも確認した。

普及のための参考情報

プログラムはFortran記述のものに加えて、構成モデルの交換やモデル相互の比較が可能なように構造的モデル化を行ったJava仕様のものも開発してあり、これらのプログラムは提供可能である。また、ここでの入力降雨は10分間の値である。

具体的データ

図1 中山間水田流出モデル
図2 実測値と計算値の比較
図3 干ばつ前後における最適パラメータの変化

その他

  • 研究課題課題名:平地湖周辺台地における水資源賦存量の解明
  • 中期計画大課題名:水利調整と用水再編手法の開発及び利用構造の解明
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:1997~2001年度
  • 研究担当者:松田 周、増本隆夫、久保田富次郎、吉村亜希子、相沢顕之、高木 東
  • 発表論文等:1)Yoshimura, A., Masumoto, T. and Takagi, A., A Runoff Model Considering Size-change Mechanism of Cracks and Macropores for Paddies in Humid Region, 1997 Fall Meeting, Transactions, AGU Vol.78, Num.18, F234, 1997.
                      2)野添学・増本隆夫・松田周・久保田富次郎、中山間水田流出モデルの開発と標準パラメータ、H14年農土学会講要、 - 、2002.
                      3)増本隆夫・野添学・吉村亜希子・松田周、耕作放棄に伴う流出量変化を評価する中山間水田流出モデル、農土論集(投稿中).