農業用貯水槽の浮上式天蓋

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

農業用貯水槽内へのゴミの進入防止やアオコの増殖抑制を目的として、貯水槽本体にほとんど負荷をかけず、寒冷地の凍結時にも利用可能なジオメンブレンを用いた浮上式天蓋を開発した。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・施設機能研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7572 Mail Address
  • 区分:技術及び行政
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

屋根が設置されていない農業用貯水槽においては、木葉などゴミの侵入やアオコの発生が維持管理上の大きな問題となる場合がある。これに対処するために、屋根の追加架設要求が増えている。しかし、このような貯水槽に新たに屋根を設けるには、貯水槽の構造や地盤の支持力などの制限があり、対策工を行う際の課題となっている。そこで、ジオメンブレン(GM)の柔軟性や軽量性に着目して、貯水槽に新たな負荷をかけず、安価な浮上式天蓋技術を開発した。

成果の内容・特徴

  • 1.構造(図1参照)
    1) 浮上式天蓋は、貯水槽全体をGMで覆い、貯留水に浮かぶ構造となっており、木葉などゴミの侵入を防止し、遮光によりアオコの増殖を抑制する。
    2) 天蓋に使用するGMは、黒色で、厚さ0.5mm、重量が470g/m2と軽量である。
    3) 天蓋の形状を安定させるため、中央には浮き、浮きと側壁の間には錘を付設している。また、浮きには貯留水に連行される空気を排除するための排気孔を付設している。
    4) GMの上面には、耐久性確保のために天蓋保護水層を設けている。
    5) 水上にGMが露出する側壁天端付近は,保護のため二重張りとしている。
    6) 設置時の施工性や維持管理の際の一時撤去の容易さを確保するため、底面と側壁面とをファスナーによる分割型としている。
  • 特徴
    1) 直径23mのファームポンドにおいて実証実験を行い、図2に示すように凍結時にも天蓋が固着することなく水位の変動に追従して可動することを確認した(図3)。
    2) 天蓋の形状は、天蓋保護水重量、錘、浮きの浮力、貯留水による水圧、GMの比重及び貯水槽側壁との拘束によりGMに生じる張力等の力学的バランスによって決定されると考えられる(図4)。
    3) GMに発生する応力は、引張強さの0.5%以下と僅かである。
    4) 設置費用は、コンクリート製の屋根の場合に比べ、1/5程度である。

普及のための参考情報

  • 形状の異なる貯水槽に浮上式天蓋を適用する場合には、貯水槽の形状に応じた浮きの浮力、錘の重量、天蓋保護水量、及び使用するジオメンブレンの仕様を適正に定める必要がある。
  • 降水が連続した場合には天蓋保護水量が増加し貯水容量を減少させることとなるため、天蓋保護水を排水するなど天蓋保護水量を適正に維持する必要があり、その対策はさらに検討が必要である。
  • GMの遮光度合い、長期の耐久性等については、さらに検討が必要である。

具体的データ

図1 浮上式天蓋の設置図
図2 浮上式天蓋の凍結時実証実験
図3 浮上式天蓋の可動状況
図4 浮上式天蓋の挙動を支配する要因

その他

  • 研究課題名:水中浮上式貯水槽天蓋の力学的挙動の解明
  • 中期計画大課題名:材料、構造、施設機能の評価診断手法の開発
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:直江次男(関東農政局より併任)、長束勇、森充広、渡嘉敷勝、藤本直也、新技術研究開発組合
  • 発表論文等:1)長束勇・藤本直也・直江次男・室井藤夫・久留須興治・中浦宇三郎・宮田哲郎・佐藤勝康、貯水槽、特許出願番号2001-064872.
                      2)藤本直也・直江次男・長束勇・宮田哲郎、貯水槽の水上浮上式天蓋の開発、農業土木学会講演要旨集、584-585、2001.
                      3)直江次男・長束勇・藤本直也・宮田哲郎・森充広・渡嘉敷勝、ジオメンブレンを用いた農業用貯水槽浮上式天蓋の開発、ジオシンセティックス論文集、16、231-238、2001.
                      4)直江次男・長束勇・藤本直也・宮田哲郎・森充広・渡嘉敷勝、貯水槽へのゴミの侵入防止・アオコの増殖抑制のための低コスト浮上式天蓋の研究、農業工学研究所技報、投稿中.