中山間地の休耕田における刈払いおよび耕耘等による植生遷移の遅延効

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要約

中山間地の休耕田では、保全管理の形態と植生との間に対応が認められ、年一回程度の地上部植生の刈払い及び数年に一度の耕耘によって植生遷移の進行が遅延し、耕作環境に近い雑草植生が維持される。

  • 担当:農業工学研究所・農村環境部・環境評価研究室
  • 代表連絡先:029-838-7684
  • 区分:研究
  • 分類:参考

背景

中山間地の水田は、食料供給の場であると同時に、国土の保全、農村景観の提供等の多面的な機能を担っている。しかし、近年では休耕や耕作放棄の増加により、これらの機能の維持が難しくなってきている。このため、休耕田の適切な保全管理を図り、植生遷移の進行をコントロールして水田の諸機能が発揮されやすい農地状態を維持していくことが重要である。
そこで、中山間地に位置する休耕田において、保全管理の形態と植生タイプの関連を解析し、遷移の進行を遅延させる効果的・効率的な休耕田の保全管理方法を明らかにした。

成果の内容・特徴

  • 調査水田は福島県T町の休耕後20年以内の保全管理形態が異なる計11圃場(表1,2)とし、2002年8月に植生調査及び圃場所有者に対する管理実態のアンケートを実施した。
  • 植生調査としては、各圃場に設定した3カ所の方形枠(2×2m)内の全出現種の地上部を刈り取った。種ごとの乾物重データから二元指標種分析法(TWINSPAN)を用いて植生分類を試みると、表3に示す8区分の植生タイプに分割できた。各圃場の保全管理形態と比較すると、植生区分は休耕後の経過年数とはあまり関係なく、休耕期間中の刈払いや耕耘頻度との組み合わせ、及び湛水管理の有無に対応した。
  • 水田としての機能維持の指標として耕作依存性を持つ雑草植生に着目し、植生タイプ内の出現種を区分すると(図1)、湛水管理で水田雑草の出現率が高く、また湛水しない場合には、高い刈払い頻度で畑地雑草が多い。しかし、数年間隔など低頻度の刈払いや15年以上の無耕耘で多年生の山野草木の出現率が40%を超えた。
  • 山野生の木本植物の定着による遷移の進行を遅延させ、水田機能の復元を図りやすい耕地雑草中心の植生を維持するための休耕田の保全管理として、年一回程度の地上部植生の刈払い及び数年に一度以上の耕耘の重要性が確認できた。(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 休耕後の植生遷移が水田及びその周辺環境の悪化に及ぼす影響を最低限にとどめるための方法が示唆された。
  • 限られた地域及び調査筆における結果ではあるが、圃場ごとの環境条件等を加味して一層実態に即した管理方法を整理することにより、この成果は他地域への適用も可能と考えられる。

具体的データ

表1 調査対象水田の休耕後年数
表1 調査対象水田の休耕後年数

表2 調査対象水田の面積
表2 調査対象水田の面積

表3 TWINSPANによって分割された植生タイプと保全管理頻度
表3 TWINSPANによって分割された植生タイプと保全管理頻度
(11筆×3カ所=計33区の植生バイオマスデータ)

図1 各植生タイプにおける山野草および耕地雑草の出現割合
図1 各植生タイプにおける山野草および耕地雑草の出現割合
注:山野草、水田雑草、畑地雑草の区分は笠原(1971)による

図2 休耕後の保全管理頻度と植生遷移
図2 休耕後の保全管理頻度と植生遷移

その他

  • 研究課題名:農地管理を向上させる基盤整備条件の解明
  • 中期計画大課題名:農地の整備水準の解明と大区画ほ場等の水分制御技術等の開発
  • 予算区分:委託プロ(農地基盤情報)
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:嶺田拓也、石田憲治、飯嶋孝史、松森堅治