農業用水管理における水のプライシングの位置付け

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要約

国際的議論が行われている水のプライシング (WP)は,水管理の改善に関し,水利費の徴収,マーケットメカニズムによる資源(再)配分という政策目的を果たすための手段である。モンスーン・アジアでは,歴史的な水管理組織による運営費徴収,合意形成がWPの働きを代替している。

  • 担当:農業工学研究所・農地整備部・用水管理研究室
  • 代表連絡先:029-838-7550 Mail Address
  • 区分:技術及び行政
  • 分類:参考

背景

水の経済財的側面に重点を置き,水に対して適正な価格をつけ (pricing),利水者がその代価を支払う仕組みを作ることによって,水資源の効率的かつ持続可能な配分と利用のための適切なインセンティヴを生み出そうとする,水のプライシング(water pricing:WP)が,世界銀行・経済協力開発機構(OECD)等の国際機関で盛んに議論されている。
この研究では,日本においてはなじみの薄いWP について,その目的や目指す政策目標との関係について明らかにした。

成果の内容・特徴

  • OECDは,加盟国で見られるWPのメカニズムを,8方式に分類(表-1)している。また,世界各国で行われている水利費の徴収は,(a)水供給に対するコスト回収,(b)節水への動機づけ,(c)再投資のための財源として行われている。OECDによる8方式の分類のうち(1)から(6)は,水利費の徴収を目的としたもの,(7),(8)は,(d)マーケットメカニズムによる水資源の(再)配分を目指したものと言うことができる(図-1)。
  • WPの概念は,水が常に希少な経済財であることを前提としているため,特に,(b),(d)の点から,市場原理による料金水準の設定や,従量的な料金体系が高く評価される傾向がある。一方,モンスーン・アジアの伝統的水管理組織の運営費徴収は,地積割りで行われている場合が多い。日本で見られる,土地改良区の運営費,及び用水施設の維持管理コストの回収も,主に「地積割り課金」によって行われており(表-2),課金徴収の問題は生じていない。
  • モンスーン・アジアのような年間に豪雨と渇水が繰り返される気候条件のもとでは,農業用水は,常に希少な経済財とはならないため,WPの概念になじまない。
  • 日本の異常渇水時の臨時的な水資源の再配分は,農業用水・上水道・工業用水など各種の利水主体の協議により行われる。これは市場原理ではなく,利水者組織による, 流域としての合意の形成を通じた効率性原理に基づくものである(図-2)。
  • 以上の点から,水利用の課金を,画一的にWPの有効性から評価するのは適当ではない。気候,水資源,水利慣行等の地域性を踏まえた評価が必要である。

成果の活用面・留意点

モンスーン・アジアでは,農業用水管理を共同で行ってきた歴史があり,この歴史が文化的背景ともなっていることから,経済原理による水配分の公平さを目指すWPの適用に向けては慎重でなければならない。

具体的データ

表1 OECD加盟国で見られるWPのメカニズム
表1 OECD加盟国で見られるWPのメカニズム

表2 土地改良区の経常賦課金の負担基準
表2 土地改良区の経常賦課金の負担基準

図1 水使用料の微収及び資源の再配布とその手段であるWP等との関係
図1 水使用料の微収及び資源の再配布とその手段であるWP等との関係

図2 共同体による用水転用の仕組み
図2 共同体による用水転用の仕組み

その他

  • 研究課題名:農業用水の従量制課金の可能性と水価格の設定に伴う影響の解明
  • 中期計画大課題名:水利調整と用水再編手法の開発及び利水構造の解明
  • 予算区分:交付金研究,その他(受託)
  • 研究期間:2001~2002年度
  • 研究担当者:藤本直也,友正達美,吉村亜希子
  • 発表論文等:1)藤本直也,従量制価格方式による水管理費の徴収について,農業土木学会関東支部大会講要,22-24,2001.
    2)友正達美・藤本直也・吉村亜希子,水利費の従量制課金導入の可能性-水田農業における土地利用からの考察-,農業土木学会関東支部大会講要,25-27,2001.
    3)藤本直也・浅野耕太・西澤栄一郎・松本武祝・宮本幸一,農業用水管理における水のプライシングの位置づけ,平成14年度農業水利問題検討会資料,1-14,2003.
    4)Naoya Fujimoto and Tatsumi Tomosho: A Viewpoint to Apply Water Pricing to Asian Humid Tropics, Paddy and Water Environment投稿中