歴史的な土地改良施設「鼻ぐり井手」の堆砂防止メカニズム

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要約

鼻ぐり井手では、隔壁底部の穿孔を通過する流れが噴流状態で下流へ流出する。このため、隔壁が連続する区間では、隔壁のない通常の水路に比べて、水路底部の流速が高く維持され、土砂の掃流機能が大幅に強化されている。

  • 担当:農業工学研究所・水工部・水源施設水理研究室
  • 代表連絡先:029-838-7564 Mail Address
  • 区分:技術及び行政
  • 分類:参考

背景

鼻ぐり井手は、肥後領主の加藤清正が1608年に開削した農業用水路である(図1)。鼻ぐり井手では、河川から流入するヨナと呼ばれる阿蘇火山灰が水路底に堆積しないよう、底部に穿孔を有する隔壁を一定の間隔で残したまま水路が開削され、土砂の掃流力が高められたといわれている。本研究では、縮尺1/5の水理模型において、最大取水時の流量(模型換算48l/s)に対して、水路末端の堰高を10、20、30cmに設定して水位条件を変化させ、鼻ぐり井手の流況観測を行い、堆砂防止メカニズムを明らかにした。

成果の内容・特徴

  • 隔壁の下部中央に穿孔を持つ現況のTYPE A (図3)、過去に存在したとされる二種類の隔壁、すなわち現況の穿孔側壁を下方へ延長して穿孔面積を広げたTYPE B(図4)、および穿孔位置を水路に沿って交互に配置したTYPE C (図5)を製作し、それぞれについて、土砂の掃流機能、流れの構造、通水機能を調べた。
  • 隔壁間の主流速分布は、二次元壁面噴流と類似の下流に凸型の形状であった(図2)。TYPE Aの掃流力は、隔壁のない水路より10倍程度高く、TYPE Bでは、TYPE Aの3分の1程度にまで低下したが、TYPE Cでは、TYPE Aよりやや小さい程度であった。
  • TYPE Aでは、主流は穿孔から噴流状態で流出し、拡散しないうちに下流の隔壁に到達する(図3)。よって、噴流の主流速は隔壁設置区間でほとんど低下しない。TYPE Bの流況は、TYPE Aとほぼ同様であるが、縮流による流速の増加は小さくなる(図4)。TYPE Cでは、穿孔から流出した流れは噴流状態にあるが、直進した流れが下流側の隔壁に衝突して強い上昇流が生じるので、らせん状の複雑な流れが作り出される(図5)。
  • 鼻ぐり井手の通水機能は、高い方からTYPE B、TYPE A、TYPE Cの順になった。また、現況の水位条件に基づき、各タイプの隔壁を流下可能な用水量を算定すると、TYPE BはTYPE Aの2倍以上、TYPE CはTYPE Aの半分程度になった。
  • 鼻ぐり井手は、隔壁の縮流効果によって水路底部の流速が高く維持され、通常の開水路に比べて、土砂が溜まりにくい構造となっている。ただし、土砂の掃流機能が強化される反面、隔壁の流水抵抗によって通水機能が低下する。

成果の活用面・留意点

現況を除く二種類の隔壁形状は、現地調査結果や文献史料に基づく仮説から決定した。

具体的データ

図1 現況の鼻ぐり井手
図1 現況の鼻ぐり井手

図2 隔壁間中央の主流速分布
図2 隔壁間中央の主流速分布

図3 TYPE Aの流れの構造
図3 TYPE Aの流れの構造

図4 TYPE Bの流れの構造
図4 TYPE Bの流れの構造

図5 TYPE Cの流れの構造
図5 TYPE Cの流れの構造

その他

  • 研究課題名:頭首工取水口における塵芥等流入制御機能の実験的評価
  • 中期計画大課題名材料、構造、施設機能等の評価診断手法の開発:
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:髙木強治、小林宏康、浪平 篤
  • 発表論文等:1 )髙木強治、小林宏康、浪平 篤:開水路に連続して設置されたオリフィスの水理特性、農土学会講要、30-31、2001
    2)髙木強治、小林宏康、浪平 篤:遺構「鼻ぐり井手」の穿孔形状とその流れへの影響、農土学会講要、90-91、2002
    3)浪平 篤、髙木強治、小林宏康:オリフィスが設置された開水路流れのLES による数値解析、農土学会講要、112-113 、2002
    4)浪平 篤、髙木強治、小林宏康:鼻ぐり井手における隔壁間流れの数値解析、水工学論文集、印刷中、2003
    5)髙木強治、小林宏康、浪平 篤:遺構「鼻ぐり井手」の水理特性に関する実験的研究、農土論集、投稿中、2003