敷設基盤の凍上に対する合成ゴム系ジオメンブレンの追随特性

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要約

合成ゴム系ジオメンブレンを用いれば、敷設基盤が凍上現象を起こす寒冷地域における貯水池表面遮水工法においても、敷設基盤は凍結深に見合った深さまで砕石などで置き換える必要はなく、施工上必要な厚さまで縮減できる。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・施設機能研究室
  • 代表連絡先:029-838-7572 Mail Address
  • 区分:技術及び行政
  • 分類:普及成果情報

背景

ジオメンブレン(GM)を用いた貯水池表面遮水工法に関する設計基準では、敷設基盤が大きく変形する可能性がある場合は、十分な敷設基盤処理対策をとることとされている。しかし、敷設基盤の変形によるGMの損傷に対する安全性が確認できれば、敷設基盤処理対策を軽減できる可能性がある。そこで、標高800mの高地寒冷地域に位置する貯水池の合成ゴム系GMによる表面遮水工法の施工事例を取り上げ、室内試験により現地で想定される敷設基盤の凍上現象に対するGMの追随特性を調べた。

成果の内容・特徴

  • 自然凍上(開式凍上)が再現できる室内試験装置を試作した(図1)。本装置を用いた試験では、現地の設計凍結深70cmのうち施工上必要な30cm厚さの砕石置換層を3cm厚さの砕石層で代替し、下層40cmの現地未置換土層を開式凍上させて敷設基盤をモデル化した。また、敷設されたGMの相対する2辺を拘束(2方向拘束)または4辺全てを拘束(4方向拘束)することで、GMの拘束状況をモデル化した。
  • 供試土層の表面変位量は、2方向拘束においては平均228mm、4方向拘束においては平均127mmを記録(図2)し、いずれの条件下であってもGMは凍上現象に十分追随することを確認した。
  • 試験結果より、次のことが明らかになった。(1)現地の凍結指数(260°C・days)における凍上量は40~50mmであり、この凍上量より十分大きな凍上を起こした本試験は、その安全性を評価するに十分である。(2)GMを敷設した条件で開式凍結させるには敷設しない条件の約3倍の凍結指数が必要であり、土層表面とGM間に形成される密閉空気層(3cm厚さの砕石層)が断熱層の役割を果たす。(3)GMは拘束される直近部(端部から10~15cmの範囲)のみが大きく引張される(図3)が、その伸び率は2方向拘束の場合は最大80%、4方向拘束の場合は最大200%であり、GMの伸び能力(図4)の1/2以下である。(4)砕石基盤上に敷設されたGMは局部的に損傷を受けることが危惧されたが、凍上試験後の引張試験においてもGMはオリジナルな物性を示し損傷は全く見あたらない。
  • 合成ゴム系GMは敷設基盤の凍上にも追随でき、凍結深に見合った深さまで敷設基盤を砕石などにより置き換える必要があるとされる従来の敷設基盤処理厚さは、施工中に要求される地耐力の確保などから決まる最小厚さまで縮減が可能である。

成果の活用面・留意点

GMの投石などによる損傷防止や長期耐久性の確保のため、本地区では貯水状態で越冬する維持管理計画になっていることから、貯水池供用中に敷設基盤が繰り返し凍結融解を起こす条件下での追随特性は検討の対象としていない。また本結果は当地区における気象・土質条件におけるものであり、他地区での利活用に当たっては、本地区との条件の相違を比較し、適用性を検討する必要がある。なお、GM自体の耐久性については解明済み(「合成ゴム系GMの力学的物性値の経年変化特性:農土誌68(1)」)である。

具体的データ

図1 室内試験装置概要
図1 室内試験装置概要

図2 土層表面変位量(平均値)
図2 土層表面変位量(平均値)

図3 GMの変形状況(2方向拘束)
図3 GMの変形状況(2方向拘束)

図4 合成ゴム系GMの引長試験結果
図4 合成ゴム系GMの引長試験結果

その他

  • 研究課題名:土木用遮水材の敷設基盤変形に対する追随特性の解明
  • 中期計画大課題名:材料、構造、施設機能等の評価診断手法の開発
  • 予算区分:交付金研究、その他(受託)
  • 研究期間:2001~2002年度
  • 研究担当者:長束勇、渡嘉敷勝、森充広、石村英明、直江次男(現関東農政局)
  • 発表論文等:1)長束 勇・渡嘉敷勝・森 充広・岸 智・大里一雄・沼尾一徳・佐藤敦史、敷設基盤の凍上に対するジオメンブレンの追随特性、ジオシンセティックス 論文集、17、95-102、2002
                      2)長束勇、5.3.2 ジオメンブレン、建設材料-地域環境の創造-、朝倉書店、93-98、2003