コンクリート構造物の劣化事例分析

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要約

全国的なコンクリート構造物の劣化実態調査データに対して、ワイブル解析と決定木解析を適用することにより、コンクリートの劣化状況と供用年数との関係や劣化に影響を与える要因などの劣化に関する特性が得られる。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・施設機能研究室
  • 代表連絡先:029-838-7573 Mail Address
  • 区分:研究
  • 分類:参考

背景

農業水利施設の更新時期を判定するための物理的根拠の一つとして、施設の劣化状況があり、その経時的な劣化特性を明らかにしておく必要がある。ここでは、旧3省(建設省・運輸省・農水省)共同で平成11年度に実施された全国的なコンクリート構造物の劣化実態調査データに対して、ワイブル解析*と決定木解析**を適用し、コンクリート構造物の経時的な劣化特性を明らかにすることを目的とした。

*  :信頼性解析分野で、製品等の寿命予測などに用いられる解析手法。
**:信頼性解析分野で、製品等の寿命予測などに用いられる解析手法。

成果の内容・特徴

構造物ごとに劣化度I(健全)から劣化度V(著しい劣化)までの5段階に分類されたデータに対して、劣化度II、劣化度IIIおよび劣化度IVの各々を故障モードの閾値と定義し、それ以降の劣化度のデータを故障データとして、その他のデータを生存データとしてワイブル解析を適用した(図1)。各々の近似曲線への適合が良いことから、これらのデータが、ワイブル分布に適合していることが示唆された。縦軸の不信頼度は、ある時点までに各劣化兆候が発現する確率*を示す。この図より、各劣化度の発現確率と供用年数との関係が、定量的に把握できる。

* :例えば、供用40年時点までに、劣化度II以上に到っている確率は39.7%、劣化度III以上では8.6%、劣化度・以上では1.9%として示されている。

橋梁下部工・擁壁・河川構造物の3構造物について、劣化度II以上を故障モードとした不信頼度が、図2である。3構造物の近似曲線がほぼ等しいことから、劣化兆候の発現に構造物種による差が無いことが示唆された。
目的変数として劣化度を、説明変数として劣化要因と考えられる6項目(供用年数、コンクリート品質、配筋状況、アルカリ骨材反応、塩害、凍害)を入力とした決定木解析の結果、コンクリート低品質と配筋不良が説明変数として選択され(図3)、両要因がコンクリートの劣化に大きく影響を与えていることが示唆された。
コンクリート低品質と配筋不良についてワイブル分布を適用したのが図4である。両者の勾配が異なる原因として、コンクリート低品質に起因する豆板やコールドジョイントなどが竣工時段階から外観上把握しやすいのに対し、配筋不良(かぶり不足)を起因とする鉄筋腐食は化学反応(中性化)に時間を要すること、また、腐食による鉄筋体積の膨張圧によるひび割れなどがコンクリート表面に達するまでにも時間を要すること、などによるものと考えられる。

成果の活用面・留意点

解析に用いたデータには、(1)構造物の抽出条件が不明確、(2)劣化度に達した真の供用年数が不明確、(3)劣化原因の判断できないデータが少なからず存在、などの制約があるため、得られた結果については現在のところ参考にとどめておく必要がある。今後、経時的なデータの収集・蓄積が進めば、精度の高い解析が期待できる。

具体的データ

図1 劣化度別の併用年数と不信頼度
図1 劣化度別の併用年数と不信頼度

図2 構造物別の供用年数と不信頼度(劣化度II以上)
図2 構造物別の供用年数と不信頼度(劣化度II以上)

図3 2要因(コンクリート低品質、配筋不良)を説明変数とした劣化度の分類
図3 2要因(コンクリート低品質、配筋不良)を説明変数とした劣化度の分類

図4 コンクリート低品質と配筋不良を要因とする劣化(劣化度II以上)
図4 コンクリート低品質と配筋不良を要因とする劣化(劣化度II以上)

図5 アルカリ骨材反応、塩害、凍害を要因とする劣化(劣化度II以上
図5 アルカリ骨材反応、塩害、凍害を要因とする劣化(劣化度II以上

その他

  • 研究課題名:事例調査によるコンクリート構造物の劣化特性分析
  • 中期計画大課題名:材料、構造、施設機能の評価診断手法の開発
  • 予算区分:交付金研究、その他(受託)
  • 研究期間:2001~2002年度
  • 研究担当者:渡嘉敷勝・長束 勇・森 充広・石村英明・直江次男(現関東農政局)
  • 発表論文等:渡嘉敷勝、農業水利構造物の管理の展開方向、材料施工研究部会報、41、1-12、2003