農業水利施設の機能診断のための非破壊調査法の評価

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要約

アスファルトフェーシングダム,頭首工,開水路,水路トンネル,パイプライン等の農業水利施設に発生している変状を効率的に調査・診断できると想定される非破壊調査法を実施して,その適用性を評価する。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・施設機能研究室
  • 代表連絡先:029-838-7572 Mail Address
  • 区分:技術及び行政
  • 分類:普及成果情報

背景

建設後数十年を経過した農業水利施設では,コンクリートやアスファルトのひび割れや摩耗等の老朽化が深刻な問題となっており,これら構造物に発生している変状が重大な欠陥であるかどうかを客観的に調査できる非破壊調査技術へのニーズが高まっている。そこで,現在主要な農業水利施設に発生している劣化現象を整理し,これらの劣化現象を効率的に調査・診断できると想定される非破壊調査法を実施し,その適用性を評価する。

成果の内容・特徴

  • 高周波(周波数1GHz以上)の地中レーダを利用することで,アスファルトフェーシングダムで発生しているブリスタリング(図1)の前兆と想定されるアスファルト層間の空洞の検出が可能であった。
  • 頭首工のピアの力学的安定性と管理用道路の橋梁の剥離危険性を調査するため,音響 弾性波法,赤外線サーモグラフィ法,診断テスタの3種類を適用した。その結果,ピア躯体の力学的健全度の評価には音響弾性波法による音響弾性波速度の測定,効率的な剥離箇所検出法として赤外線サーモグラフィ法(図2),精度の高い剥離箇所のマッピング手法として診断テスタが有効であった。
  • 水路トンネルに発生しているクラックの原因を確認するため,地中レーダによりトンネルアーチ部の空洞分布状況を調査した。その結果,全測線長2,470mのうち,約60%の区間に空洞があることが推定された。クラックの直接的な原因を調査する手法としての適用は難しいが,クラックの発生と関連が深いと思われる覆工の空洞分布状況を調査する手法として,地中レーダは有効である。
  • パイプ内部にHeガスを充填し,損傷箇所から漏れるHeガスを地表で検知することにより漏水箇所を特定する手法を試みた。その結果,パイプからしみ出す程度の漏水位置であっても十分その位置を特定できた。
  • 適用した農業水利施設の劣化状況と検査対象,非破壊調査法の適用性は表1のように示される。

成果の活用面・留意点

農業水利施設に見られる変状の原因を推定し,検査対象を明確にしてから適切な非破壊調査法を選定することが重要である。さらに,数種類の非破壊調査によりクロスチェックするとともに,必要に応じて削孔あるいはサンプリングを行って,非破壊調査結果の妥当性を確認する必要がある。

具体的データ

図1 地中レーダーによるアスファルト層間の空洞の検出
図1 地中レーダーによるアスファルト層間の空洞の検出
(左写真上はブリスタリング現象の一例で、数値は基準点からの距離を示す)

図2 赤外線サーモグラフィ法による頭首工ピアの剥離危険箇所の検出
図2 赤外線サーモグラフィ法による頭首工ピアの剥離危険箇所の検出
(左上の写真は可視画像)

表1 適用した非破壊調査法との有効性の評価
表1 適用した非破壊調査法との有効性の評価

その他

  • 研究課題名:非破壊調査による構造物等の診断技術の評価
  • 中期計画大課題名:材料,構造,施設機能等の評価診断手法の開発
  • 予算区分:交付金研究,その他(受託)
  • 研究期間:2001~2002年度
  • 研究担当者:森 充広・渡嘉敷勝・長束 勇・石村英明(関東農政局より併任)・直江次男 (現 関東農政局)
  • 発表論文等:1) 森 充広・渡嘉敷勝・長束 勇・服部晋一,農業水利施設機能診断のための非破壊調査現地適用事例,農業土木学会誌,Vol.70,No.12,55-58,2002
                      2) 森 充広・渡嘉敷勝・直江次男・長束 勇・服部晋一,音響弾性波法および赤外線サーモグラフィ法による構造物の非破壊調査事例,平成14年度農業土木学会大会講演要旨集,414-415,2002