フィルダムの管理・補修のための構造評価法

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要約

完成から20年以上が経過した14ダムを対象に、現地調査を行い、ダムの特徴的な劣化現象を明らかにする。また、それらの劣化項目を整理し、目視によるダムの性能低下を判断するための日常点検表(案)を作成する。これらは、長期供用されたダムの適正な管理の基礎資料となる。

  • 担当:農業工学研究所・造構部・構造研究室
  • 代表連絡先:029-838-7571 Mail Address
  • 区分:技術及び行政
  • 分類:普及成果情報

背景

我が国には、農業用の大ダムが約1,800個存在する。ダムの機能を確保していくためには、時間的に変化するダムの安全性、機能性を評価し、その機能が著しく低下しないように適切な補修・補強を行う必要がある。本課題では、完成から20年以上が経過したダムを対象に、現地調査を行い、ダムの特徴的な劣化現象を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 長期供用された均一型フィルダムおよびロックフィルダムに見られる特徴的な劣化項目は、堤体では、1)漏水、2)堤体の変形、3)周辺地山の崩落等である。フィルダム洪水吐では、1)床板の摩耗、2)側壁のひび割れ、3)側壁継目の開きおよび食い違いであった。一方、重力式コンクリートダムでは、1)堤体のひび割れ、2)堤体表面のコンクリートの風化、3)堤体継目からの漏水である。
  • 表-1にダムの各部分に対して見られた劣化現象とその劣化現象の進行を観測するために必要な調査項目を示す。
  • ダムに発生する特徴的な劣化現象の例を示す。(1)1960年代後半に供用が開始されたロックフィルダムでは、堤頂のアスファルト道路にひび割れが発生しているものがみられる(写真-1)。このようなひび割れが直ちに堤体全体の変形に結びつくとはいえないが、ひび割れの進展を把握するために定期的な点検が必要である。(2)フィルダム洪水吐の劣化現象としては、【1】流水による床板の摩耗の進行、【2】側壁に発生するひび割れおよびひび割れからの漏水、【3】側壁継目の開きおよび食い違いが見られる。洪水吐の劣化はダム毎にその進行に大きな差が生じている。これは、洪水吐の越流頻度、コンクリートの性質および気象条件等がダムによって異なるためと考えられる。
  • 以上の調査内容を基に,ダムの日常点検表(案)を作成した。その一部を表-2に示す。この表はダムのカルテに相当する。一定の調査項目に従い,定期的な点検を行うことによりダムの機能を合理的に維持していくことが可能である。

成果の活用面・留意点

日常点検表(案)はダムに発生する主たる変状を整理したものである。今後,個々の変状がどのような劣化の進行段階にあるかをダムの管理者が判断できる評価基準を作成することが重要である。

具体的データ

表1 ダムの劣化と調査項目の関係
表1 ダムの劣化と調査項目の関係

写真-1 提頂部ひび割れ
写真-1 提頂部ひび割れ

表1 ダム日常点検表(一部)
表1 ダム日常点検表(一部)

その他

  • 研究課題名:フィルダムの管理・補修のための構造評価
  • 中期計画大課題名:貯水過程でのフィルダム等土質構造物の破壊メカニズムの解明
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2001~2002年度
  • 研究担当者:浅野 勇,向後雄二,林田洋一
  • 発表論文等:1) 浅野 勇,安中正実,増川 晋,田頭秀和 コンクリートダムの長期挙動データに対する季節調整法の適用,ダム工学,vol.11,No.2,139-153,2001
                      2) 向後雄二 進行性破壊,農業土木学会誌,Vol.70,No.5,64,2002